牧場にかける橋

猛暑
余りに熱くて人生が嫌になった変態代議士は、ご主人さまに暑さを忘れさせて貰うべく船に赴いた

「小龍…脳みそがトブまで責めてくれよ…」

しーん

「小龍?」

がちゃ。

中では小龍が床に倒れていた

「小龍!?どうしたんだ!?」
「死ぬ…」
「一体何が…」
「暑い…蒸し暑い…死ぬ…」
なんだか虚ろな目をして呟くだけのご主人さま。

副頭に状況を問うと
「あっしらは満州の出身ですからね。暑さとは無縁の育ちなんでさ。それが日本じゃこの蒸し暑さ…耐えられませんぜ」
との事だった

(クソ…やっぱ小龍とやらねえと気が狂いそうだ)
浮気ばっかしてる癖にわがままな政治屋は早速誰かに相談しようとしたが、健は暑苦しさの化身のような男だし、こんな状態であれば小龍も食われてしまう。
「かといって阿佐田は…」
ちなみに哲も暑さで溶けていたから論外。

「涼しさの達人…誰かそんな奴は?」
「呼んだかい。祥ちゃん、ひひ」
「お…お前は!年中怪奇特集男印南!!」

ともかく雪の似合う死神君に訳を話す
「確かにな。俺も北国育ちだから気持ちは分かるぜ」
「…だが回りに冷気まとってたら平気だろ」
「何故かみんなそう言うな。俺の回りにいたら寒いらしいぜ。しかし祥ちゃんは、そんなかっちり着て暑くねえのかい?」
「俺はバナナもとれる亜熱帯台湾育ちだからな。少しはマシだ」
「じゃその船とやらに行くか」

小龍の船
「小龍…しっかりしろ。人間冷房が来たぞ」
「邪魔するぜ、ひひ」
船内の温度が少し下がり、小龍は薄目を開けた。

「こ…んどう…」
「大丈夫か?!」
「か…ぜ…」
「どうした?」
「大草原の爽やかな風が…ほ…しい…(バタ)」
「小龍ー?!(泣)」

こんな狭苦しい日本で大草原に吹抜ける風なんて絶対無理…二人は頭を抱えた
「ククク…これは俺を困らせるプレイだな?そうに違いない…クククク…」
壊れかけた近藤にヤクの切れた印南
「(ぷるぷる…ぷす)ふう…」
すると彼のガンに見える物があった。北海道の草原に吹き抜ける風達。そして大草原に吹き抜ける風達の共通点が

「祥ちゃん…」
「?」
「俺の故郷に来ないか?大草原とまではいかねえが…少なくともここよりゃよっぽど爽やかさ、ひひ」
「…どうだ?副頭?」
「お頭が復活するならどこにでも行きやす!」
「…北海道だ、頼む」
「任せてくだせえ」
という訳で三人と瀕死のプリンスは、大草原の小さな家にやって来た

「…地価の高い日本にしちゃ…近隣に家のないトコでやすね」
「確かに。学校や買い物はどうしてんだ?」
「ん…風?大草原の風だ…」
「お頭?」
「小龍!?」
「ついでだ。うちによってけよ」
かくして印南は彼の家に皆を誘った

印南ん家
「近藤…?ここはどこだ」
「気がついたな。函館さ。多分日本で一番夏の過ごしやすい場所の一つ…」
「お頭がかなり参ってたみてえなんでお連れしました」
「そこの顔色の悪い男…てめえは確か…」
「印南だよ、ひひ前はあんたにゃ殺されかけたっけ」
「てめえ又オレの近藤を狙って…」 夏バテばてから立ち直るや、すぐに嫉妬する小龍をなんとか宥める一同

「…確かに涼しい…」
「ひひ夏でも二十度程度だからな」
「そりゃまた涼しいな」
「お頭、満州を思い出しやすね」
「あそこは夏でも寒いくらいだったな」
「小龍…たまにゃお前の昔の話を聞かせてくれよ」

少し不服そうな小龍だったが、肌に感じる風の懐かしさもあり彼は話し出した。
「オレの生まれた場所は…満州の大草原。見渡す限りの鮮やかな緑の大地…そこがオレの故郷だ。親父は近藤、お前も知ってのとおり部族の長で、ばかでけえ男だったさ。オレはガキん時から親父と一緒に部族同士の抗争やら、略奪にやら明け暮れてた。戦闘中の親父は鬼神そのもの、族の規律にも厳しかったが、部下への愛情は深かった」
「そうですとも…」
「ひひ、すげえ親父さんだったんだな。ちなみにお袋さんはどんなだったんだい?」
小龍は固まった。
「お袋は…オレは顔はお袋似なんだ。」
「美人だったんだな」
「確かに綺麗な方でしたね」
「ああすげえ美人だったさ…そしてすげえ…気の強い人でな。馬賊を手足のように動かす親父を顎で使える人だったよ…親父、なんでまたあんな気の強い女と一緒になったんだか」
「いや…しかし夫婦仲は非常によろしかったですぜ?」
「しかも嫉妬深くてな。親父がちょっと別の女に目ェ向けたとみるや銃をブッ放してたなあ…」
「驚くばかりに母親似だなあ」
「ヒヒ全くだ」

「小せえ頃…お袋は…躾にも厳しくてな。よく叱られた…」
「やんちゃだったんだな、ひひ」
「違う。捕虜の拷問の仕方が生温いってな…自分で鞭とって実演して」
「血だな…」
「ええ全くです(泣)」
「オレも親父もお袋にはさすがに頭、上がらなかったぜ…ちっ」
「いやしかし、嫉妬深ェのも…何やもおやっさんへの愛故だったんですよ。でなきゃ…」
「ああ…関東軍に急襲された日もな、親父が逃げろったのにお袋は逃げなかった…
『死ぬ時は一緒だ』
ってな…一緒に撃たれたよ」
「…」
「あれだけはすごいと思ったさ。惚れた事に命かけたんだからな」

「小龍…こんな事を俺が言うのもなんだが…そこで
『お袋みたいな女と一緒になりたいなあ』
とか思わないのか?」
「…お袋みてえな女?なげえこと女売り飛ばしたり色々やってるが…あんなすげえ女、今まで見たことねえさ。滅多にいるもんじゃねえよ、あんなすげえ女は…」
「(ボソ)何だかんだいってマザコンだったのか?」
「(ボソ)ええ…かなり重度で…」
「なんか言ったか?」
「いえ別に」
「しかし…小龍とそんな女が一緒にいたら世界に多大な迷惑がかかるしな…これでいいのかもな」
「おい近藤。折角だ、お前の話もしろ」
「は?俺?そんなおもしろい話なんかねえぞ」
「オレに隠し事しやがる気か?」

「…わかったよ。俺は…俺の親父は結構な資産家だった。まあ、親父はただ家財を受けついだだけで…本当に偉いのは農場経営で成功したとかいう御先祖だがよ…代々学者やら事業家の多い家でな。そこの次男坊に俺は生まれちまった…兄貴は出来がよくて、親父の跡を継いだ。で問題は俺だ。家は継げねえが家の名誉になるような仕事つけってな…気付いたら法学部に放り込まれてたよ。そこで勉強してゆくゆくは弁護士か裁判官か学者か…まあそんな事考えられてたんだろうな」
「祥ちゃんは頭がいいからな。なんで博打なんてして足を踏み外したんだい?」
「フフ…頭なんてよかねえよ。人様より金持ちの家に生まれたから学が身についたってだけさ。そう…それが元凶さ。とりあえず大学入って、親満足させれるくらいの成績は出したさ…最初のうちはな。そのままいきゃ俺も親が思い描いてたような手堅いが…味もそっけもない人生送ってたろう。だが俺は毎日悶々としてた。けど反抗するでもなかった。その考えが変わったのは…うちの大学のある教授が原因だった…」
「セクハラか!?」
近藤以外の三人が叫んだ
「セクハラですな。いやあ、あっしは大学なんざ縁がなかったが話にゃ聞いてますぜ?アカデミックハラスメントって奴ですな…気の毒に」
「祥ちゃん運が悪いからな。また学生を食い物にするタチ悪い教授に脅されたんだろ?」
「畜生腐れインテリめ!!今からオレが頭に鉛玉ブチ込んで…」
「なんでそうなるんだ…生き方の話だよ。えと…まだ若い助教授だったが、妙に悟りきったような…そのクセ好奇心旺盛なガキみてえなとこのある不思議な人だった。まあ他の教授や学生からは変人よばわりされてた。その人にある日を飲みに誘われて、他の何人かの学生ともども付いてったんだ。そしたらよ。普通に酒が回った後で助教授は言ったんだ
『君らは将来何をしたくて大学に来たんだ?』
まあみんな色々言ったさ…そして俺の番。俺にゃ夢なんて特になかった。親の言うとおり優等で大学出て資格とって…まあ適当に嫁なんぞ貰って…それが一番堅実な人生だと思ってた。だからそう答えた…そしたら助教授は言ったんだ
『堅実で失敗のない人生なんてあると思うかい?』
俺は答えに詰まった…そんな俺を優しくも厳しくもない眼で、その人はじっと見ていたが。しばらくして言ったのさ。
『利口な生き方ってのは要は自分の人生じゃない、ただの世間の反射体だ』
ってな…」
「へえ、大学にそういうことを言う奴がいたんですかい」
「ああ。際立って、浮いてたがな。そうして俺は…博打を打始めた。なんで博打だったか…多分先の読めない生き方に憧れてたんだろうな。俺にゃ博才はねえから何度も死にそうな目に合った。そして俺は…大学を首になり、家からも追んだされたのさ」
「後悔はしなかったかい?世間の反射体だろうが何だろうが、安全と成功が約束されてたんだぜ?」
「フフ…したさ。いっそ体売ってもいいくらいの生活になったからな。けどな…もう止めようか、そう思い始めてた時俺は…」
近藤の言葉を遮るように小龍は
「会っちまったんだろう、あいつに」
そう吐き捨てた。

「哲っちゃんか…」
「…因果なもんですねえ」
「近藤…黒シャツの事はオレも認めてるだが、あいつの存在をお前の頭から消し去れたらどんなにいいかと思う。そしたらお前はオレだけの…」
「不可能な事言うなよ。阿佐田がいなけりゃ俺はこうなっちゃいないさ、良くも悪くもな」
「…祥ちゃん、哲ちゃんにラブラブだなあ」
「フ…多分な」
「まあいい。ついでだ、そこの死神!!」
「俺かい?」
「話をしろ」

「俺ア話せるような人生送っちゃいないぜ」
「それは絶対ないだろ…そうだ、俺たちの横須賀時代の事はどうだ?」
「オレたちの…だと?死神お前!」
「別に顔見知りだっただけだぜ?ヒヒ。学生が何で横須賀のあんなおっかねえとこウロついてんのか疑問で…話しかけただけさ」
「俺も何で今にも血ベロベロ吐いて死んじまいそうな奴がいるのか目ぇ疑ったさ。実際死神じゃねえかと思ったな…」
「まあそんなこんなで喋ったら同じ穴のムジナ…博打うちだったって訳さ。と言っても俺は博才のねえ学生崩れ。こいつは麻雀半荘も保たねえ病人だったがな」
「確かにな。一番儲かる麻雀が出来なかったがよ。まああそこには他にも賭博は山ほどあったからな。祥ちゃんに通訳してもらってそれなりに稼いださ」

「そうそう、横須賀といやあアレだ」
「ああ…あの野郎の話かい」
「…なんの話だ?」
「いや、俺たちがカモにしてた米兵たちの間で…ちょっとした噂になってた男がいたんだよ」
「見たことなかったが話だけは何度も聞いたな、ひひ」
「そいつは…何でも米兵相手に博打打つだけじゃなく…体まで売って荒稼ぎしてたらしい」
「ヒヒ…しかも寝た後で相手の身ぐるみかっぱいでたってんだからすげえな」
「…」
「一体どこの誰だったのか…顔くれえ拝みたかったぜ」
「近藤、オレの勘が見知った奴だと言ってるんだが…」
「知ってる奴?印南、知合いにそんな奴いるか?」
「いや。博打が強くて体売ってそうな奴なんていねえよ」
「だよな」

ぶえっくしょい

「ダホ中年風邪かいな。夏風邪はダホがひくゆうしな」
「違うもーん、きっと萌キャラが俺の噂してんだぜ。俺みてえな色男に抱かれてひーひー言いてえってよ」
「暑いからって益々わいとるな頭」

「オレにゃそいつの顔まで浮かんだぞ……奴め。昔からとち狂ってやがったんだな…」
「小龍、一体だ…」
「もういい。考えるだけで頭痛がしやがる」

「おい、みんな腹減ってんじゃねえか?ヒヒ。よかったら食えよ」
「こ、これは!アルプスの少女ハイジ?で出てきたよーな白パン!!あとすげえ新鮮そうな牛乳!?」
「…場所としてはしっくりきやすが、出した本人とのイメージに深え溝が…」
「…オレは味にはうるさいぞ!!死神!」
だが牛乳はあくまでまろやかに、そしてさわやかで快い甘味を持ち、白パンは天然酵母の甘さを十分に引き出していた

「なんて健康的な旨さだ」
「全くです」
「…」
そして三人は印南をそっと盗み見た
「ヒヒ…とれたてで焼きたてだからな。チーズとバターもあるぜ」

「なあ印南、気を悪くしないで聞いて欲しいんだが…こんな空気のいい草原にいてこんな食品添加物が入ってなさそうなモン食って…なんでお前体弱いんだ?」
「別に俺も、生まれた時からこんな体なわけじゃなかったんだぜ?ヒヒ」
そう言い、印南は古びたアルバムをもってきた。
「まあ見てくれよ」

パラ

「…か、可愛いぼっちゃんですね。丸顔の健康的な…」
「おい…まさかこれ…」
「俺さ、ヒヒ」
「ブラフだ!!信じないぞオレは!」
「な、何がお前をそんな風に…」
「だから肺をやられてな。一気に体重と体力がなくなったのさ。戦争中だからロクな手当ても受けられなくてよ…気付いたらこんな体さ」
「俺は体力は大した事ねえが、そんなに命に関わる病気はした事ねえからな」
「お頭は昔から丈夫なお子さんでしたしね」

「こんな体じゃまともな職につけねえしな。しかも長生きできる当てもねえ。フラフラしてたら博打に出会った…まあそんなトコさ」

まあそんなこんなで、互いのあまり嬉しくない過去を語り合った男たちは熱帯夜知らずのかの地で、その日は泊まることにした。

夜は満天の星空…都会で味わった暑さの憂さも忘れ、一同屋外で夜風に吹かれていた…

そんな時。
「なあ祥ちゃん…祥ちゃんはさ」
「なんだ」
「恋したいと思わねえか」
死神の、あまりに不似合いな台詞に驚愕する近藤
「俺も玄人なんて稼業を続けてると思うんだよ。たまにゃラヴロマンスって奴にひたりたいなと」
「…まあ俺もこんな稼業してると、可愛い嫁さんやあったかい家庭に憧れる事はあるけどよ…」
「だろ?」
そして傍らでは、小龍が不愉快そうにその会話を聞いていた

「可愛い嫁や家庭…あとリリカルとは縁遠いにしても…いい人がいて、しかも両想いラブな祥ちゃんが少しうらやましいぜ。俺あ全く縁がないからなあ、艶っぽい話たあ」
「印南…そんな事言わずに探しゃいいじゃねえか。まあ確かに長い付合いは無理だろうが短い恋でも…」
「この外見だからな。せめて健康なら一晩の恋なりともなんとかなるんだろうが、どうも血ィ吐いちまってなあ」
「ああ…まあ最初は緊張するしな。なんなら俺と寝るか?」

ギロリ

と小龍が嫉妬に燃えたものすごい視線を送る。
「祥ちゃん冗談でも、好きあった人の前で、そんなこと言うもんじゃねえよ」
「別に冗談じゃねえんだがな」
「近藤っ!!」
「お頭…落ち着いて。あんた、外見とは裏腹にすげえいい御仁ですな」
「人の恋路を邪魔する奴は…っていうだろ、ひひ」
小龍は嫉妬に耐えかね近藤を引きよせた

「貴様…いい加減にしないと」
「と?なんだ、殺すか」
楽しげに問い返す近藤
「楽にゃ殺さねえ。まず手足の腱ぶった切ってオレなしじゃ身動き出来ねえようにしてやるよ」
「そいつも悪くねえな、クク」
「おい祥ちゃん、やめろよ。目がまじだぜ」
「お頭もやめて下せえよ」
「なんだ近藤!!お前はどうしていつもそうなんだ。オレの何が不満なんだ」
「別に不満なんかねえよ。ただ…不安なんだよ…俺はお前の玩具に過ぎねえ。だからいつ捨てられてもおかしかねえ。ならいっそ、自分から捨てられるか、殺されちまった方が…ってな。正直お前が俺にこんなに執着してくれるのは、嬉しい反面怖くて仕方ねえんだよ。いつかすげえ破滅が待ってそうで…」
虚ろに哀しげに微笑む近藤の肩を乱暴に掴み
「馬鹿野郎!」
小龍は叫んだ。

「近藤、オレはな…お前が…お前がいないと…不安…なんだ」
「いびる相手も拷問かける相手も事欠かねえだろ?」
「いや…あいつらじゃ役不足なんだ。いたぶられつつも淫美で蠱惑的なお前でないと駄目だ。捨てる?…誰がンな事するかよ。もし殺すんならオレが肉の一片から血の一滴まですすりあげて、お前の全てをオレのモンにしてやるよ」
「…純愛?だなあ…」
「ああ…おやっさん、そして姐さん。貴方がたの息子さんは…もうあっしにゃどうしようもねえです(泣)」
畜生道の恋人二人は星空の下、やおらおっ始め出した。

「万一けものが出たらいけねえから火焚いとくぜ…相思相愛だなあ…いろいろ間違ってる気もするけどよ」
「もうあっしはノーコメントで…(泣)」
副頭と印南は、肉欲の世界にどっぷり浸かった二人を置いて中に入った。

お茶を沸かす印南
「すまねえな、酒がなくてよ」
「いやいや。これで十分でさ」
「なあところであんたさ。死の商人の割にすげえいい人だがよ。なんで小龍の船に乗ってんだい」
「あっしは先代のお頭…つまり今の頭の親父さんの代からお仕えしてましてね。あっしの親父、じいさんと代々おつかえしてきた訳で。こういうと親に従ったみてえに聞こえやすが、あっしら遊牧民族は自分の意思で身の振り方も決めまさあ。先代、そして今の頭に惹かれる所があったからこうして配下にいるんでやすよ」
「そうかい…だがよ、気ィ悪くしないで欲しいんだが…あんたのお頭は子供っぽいし我儘だし…なかなか扱いづらくねえか」
「確かにその通りでさ。しかも残虐で気紛れで…気の休まる時もねえ…確かにな。でも」
「も?」
「頼りにはなりますぜ。暗い海を明りも付けずに走れる視力。卓越した決断力、強引なのは行動力でさ。巧みに武器を扱う力…それに何より…」
「あの人は、自分がこうと決めたことは…どんなに不可能と思えても成し遂げる。運と力で…全て可能にしちまうんでさあ。それを横で見てるのがどんなに胸踊るか…。だから離れられねえんです。副頭やっててよかったと、心底思えるんでさあ」
「俺も分かるぜ…自分じゃ出来ねえ事を可能にする人間がいるって事は…しかもそれを近くで見れるってのは嬉しいこったよな」
「ああ…」
副頭は茶を飲み干した
「それに…あっしがいなきゃ駄目かもって思うと可愛いモンですよ。手のかかる年離れた弟みたいでね」
「手のかかりっぷりが普通じゃねえけどな」
「確かに」

「それとよ、あんた祥ちゃんについてはどう思ってんだい?」
「まあ初めはあの先生に夢中になるお頭は見ちゃいられなかった…まあいまでもあのお二方の鬼畜っぷりは直視できやせんが…」
「ひひ、確に刺激的過ぎんなあ」
「けど先代が亡くなってからこっち…よくも悪くもあんな楽しそうなお頭見たことありやせんでした…だから感謝してやす。しかしあの先生たまに、別の意味で怖いんでやすが…大丈夫すかね?何か今にも自殺しそうで…」
「祥ちゃん昔から不幸で不運だったからなあ…よく人生に後向きになっては酒飲んで愚痴ってたけど…なんか今は酒だけじゃなく、危ないセックスにはけ口見いだしちまったみたいだなあ」
「…すいやせん。うちのお頭のせいで」
「祥ちゃんも割とギリギリを好んじまうからな…いいカップルなのかもな」
「…ですね。ちょいと勘弁してほしいですが」
「あれだけ慕い慕われる関係てなあそうないぜ。俺も一度本当に恋愛してみてえな、ヒヒ」
「すげえいいお人柄なのに…気の毒に。まあ今は機会を待って…きっとあんたを理解してくれる人がいる筈でやすよ」
「ありがとよ。とにかく骨休めと思ってゆっくり休んでくれよ、副頭さんよ」
「ありがたく」

で戸外では。絡合いつつも二人が語合っていた
「近藤…お前どうしてあの死神とあんなに親密なんだ」
「フ…今度は印南に嫉妬かよ。そんなに嫉妬してると本気であいつと寝るぜ…くゥ…ハハ、やっばりお前の責めはいい…」
「オレの問いに答えろ」
「ハ…ハ…あいつは只の昔馴染みだよ。阿佐田より更に前の…ってだけだ」
「それが気になるんだ」
「そんなにあいつに抱かれたいと言わせてえのか?」…印南、あいつはな。根っからの玄人…。阿佐田も認めるくらいの真の博打うちさ…」
「黒シャツが?」
「ああ。奴の言葉聞いたろ?あいつはヤク以外酒、女…もちろん男もやらねえ。人生博打一色なんだ…。すげえと思うぜ。そう思わないか?あいつが気になるとしたらやっぱり…そこだな。俺にゃ出来なかった生き方だからよ…」
「…」
「けど勘違いしてくれるな小龍。俺が愛してるのは…殺されても惜しかねえと思えるのはお前だけだ」
「本当だな」
「本当だ。俺が本気で愛してるのはお前だけさ。体も心も全部な…お前になら寸刻みにされたって惜しくねえよ」
「ならどうしてオレ以外の奴と寝たがるんだ」
「フフ…スパイスみてえなモンさ」
「この淫売が」
「そう…もっとそうやって罵ってくれよ。そうされると…」
「と?」
「もっとお前が欲しくなる…お前にならタマとられたって構わない、そう感じられるんだ…。小龍…俺を逃がすな…縛り付けてお前の前に引き据えて、眼をそらさないでいてくれ…。体の細胞のすみずみまで忘れられなくなるよう、刻みつけてくれよ。お前をな…」
「言われずともそうする。他の誰よりてめえを満足させてやる。離してなどやるかよ…お前に選択の余地はねえ」

かくして近藤のアタマがトブまで小龍に責め上げられたいという願いは、北海道の大草原で叶ったのだった。

ついでに夏バテが解消した小龍はというと…

「おい死神。夏が過ぎるまでここに寄港させろ」
「ひひ、いいぜ。誰も滅多とこないから賑やかでいいぜ」
「小龍…俺は仕事があるんだが…」
「こないだ軍用機を手に入れた。それで通え!」
「…」
「す、すまねえでさ…。何か家がラブホがわりみたいになっちまって…(泣)」
「愛を語るのに場所は関係ねえよなお二人さん?ひひ」
「よく分かってるじゃねえか」

てわけで印南ん家を避暑地に、お頭は日本の夏を乗りきることにした

「ごめんな印南。」
そう言いつつも夜は一生懸命な先生だったり


捏造過去話。近藤や小龍の過去はたくさん捏造されてますが、実は印南の過去はあんまり設定がありません。いや、原作設定とか考えちゃうと…ね?(哲や健はどうなんだという自己ツッコミはもうしました)
印南好きなんですけどね…