独裁者すいっち

忌田さんは悩んでいた
「誰か…うちのわんこにちゃんと躾してくれないだろうか…」
最近ますますやんちゃなわんこなのだ

「忌田さん…」
「うわあっ!?」
時空の穴から覗いたのは、いつぞやの青い狸だった

「困ってるみたいだね…これ、回そうか?」
「は?何このスイッチ?」
「これは独裁者スイッチ。独裁者に精神的苦痛を与えて懲らしめるスイッチさ。」
「あ…そんなすごいモン…なんであんたが持ってるんだ?」
「二十二世紀では子供の小遣いで買えるのさ」
「二十二世紀はそんなに独裁者がはびこってんのか?」
「フフ…光りあるトコには闇があるもんさ…じゃあね」
疲れたようなニヒルな笑みを残し、ドラは去った

独裁者に精神的苦痛…

「どういう効果があるのか…」
少々心配になった忌田氏だったが、上野の治安のため、世界平和のために(笑)決意した。

「…健」
「忌田ぁ、木座のてるてる坊主♪」
「助けて忌田さん(泣)下ろしやがれ糞帝王!」
帝王は、木座神をテルテル坊主…という名目で吊り下げて遊んでいた。

「いい加減弱い者いじめはやめなさい!」
「だって暇〜!ブー」
忌田さんはちょっと躊躇したが、決心した。

「…ならこれで遊んでなさい」
そう言い、健に独裁者スイッチを渡した。

「忌田、何これ?」
「それは独裁者スイッチと言ってね、嫌いな奴の名前を言いながらスイッチを押すと、そいつが跡形もなく消えるんだよ」
「うわーい♪じゃさっそく。木座神ー♪(ぽちっ)」
帝王はなんのためらいもなく、木座神でためしてみた。

「あ、本当に消えた。なあ忌田ぁ?木座ホントに消えたぜ?」
「木座?誰だそれ?」
不思議そうに問う忌田。
「へ?」
どうやら消された人間は、その存在した記憶すら消えてしまうらしい。
かくも恐ろしいものを手にした帝王だったが、帝王の感想は
「楽しそー♪」
だった。ともかく帝王は楽しみまくる事に決めたのだった。

「よーし、じゃ、萎えな奴全部消すう♪春木(ぽちっ)金男(ぽちちっ)」

ちなみに金男は近藤議員宅でがっつししてたのだが…。
「ん?俺は裸で何を…?何かすげえ不快なような気持いいような事してた気が…」

そして複製人間は…面白コピーショーの最中かき消えていた。

「萎えキャラが消えて俺すげえ快適♪
驀進するわんこ。そもそも力ずくなのに、このスイッチを手に入れたからには鬼に金棒、気違いに刃物。道行く萎えたちを消し去りながら進むと、愛するユウたんと哲がやたらといちゃいちゃしているのに出くわした
「わーい♪ユウたーん♪哲う♪俺も混ぜてー♪」
「げ、健…」
「今いいとこなんだ、邪魔するなよ。もうちょいでユウさんをあんあん言わせられるんだから」
「う、嘘お(泣)哲う」
「あいにくユウたんは俺にゾッコンだぜえ?」
「何ナマ言ってるんだ?ユウさんはオレの」
「違うもんねー!!俺のだもんねっ!!な?ユウたん?」
「違うよなユウさん?」
「何だよー…じゃユウたん選べ!!」
「え?…そりゃ俺は哲が…」
「なにさ!!なにさー!!ユウたんの馬鹿ー!!俺が一番つったじゃあん!?」
「誰もんな事言ってねえ!!」
「…そんなユウたん嫌い!!」
「(むっ)じゃあ嫌えばいいだろ」
「(ぶー)じゃ、哲を消してやるもん。そしたら俺一番(ぽち)」
瞬時にかき消える哲。

「…惜しいことしちまったかな?…」
帝王はちょっとだけ反省した。
「ん?あれ?俺今ここで誰かと話してたような…?」
「ま、仕方ねえか。消しちまったもんは。ユウたん、ユウたんしっぽりしよー!」
なんか腑に落ちないユウをヤサにひきずってく健だった。

ユウたんとがっつんしながら今日も幸せなわんこ帝王だが
「…なんか…変だ…なんかすげえ大事なモンを失っちまった気がするのに…何も思い出せねえ」
「なんだよー、俺じゃ不満なのかよ?」
「(がばり)おい健?おまえ何しやがったんだ?」
「…別にー」
なんかユウたんが自分だけのモンになったのに嬉しくない帝王だった
「やっぱ、こんな変なスイッチに頼らずに、力ずくで奪いとんのが玄人だよな…」
珍しくどこか沈痛な表情の健に、ユウは事の重大さを、わからないながらも感じていた。
「健、頼むから教えてくれ…何をしたんだ?」
健は何も言わずにユウをもう一度押し倒した。いつものように体で誤魔化そうとしたものの、ちっとも乗ってこないユウ
「何だよ、俺の事嫌いになったのかよ…なら消しちまうぜ?」
「変だよ今日のおまえ…何だよ、おまえなんか俺の惚れた健じゃねえよ…帰ってくれ!!」
「いつもの俺とどこが違うってんだ?」
壁際まで後ずさるユウに詰め寄り、健はすごんだ。
「…違う。お前がそんな後ろめたい目をする筈ねえよ…」
「俺が?…後ろめたい?」
ユウは緊張した面持ちで、健を凝視していた。
ユウに見つめられて益々後ろめたくなる健
「…いいさ、なら消すまでだ」
「え?」
そんなはかない言葉を残し、ユウは消えた。布団の温もりすら消えてしまった

「…別にいいさ。俺にはまだまだ沢山いるからよ」
と言いつつ、心が痛い健だった

ユウや哲を消した瞬間の表情が、頭から離れないまま健は議員宿舎へ向かった。
「センセ、来たぜ」
近藤の部屋の扉をこじ開けると中から
「健か…入ってこいよ」
声のした方へ行けば、近藤はベッドにしどけない姿で横たわっていた。
「さっきまで誰かとやってた気がしたんだが。夢でもみたのか…。ともかく体がうずいて仕方ねえんだ。やろうぜ?」
淫らな目の近藤に、健は今しがたの事を努めて忘れようとするように、しゃにむに抱きついた。

暫く体を重ね合わせて快楽を貪って満足していた健だったが
「どうしたんだ?いつもと違うぜ?」
と聞かれた。
「別に違わねえよ」
「嘘つけ。犬の癖に、後悔を顔に張りつけてやがる…俺みてえじゃねえか」
「…なあセンセ?あんた政治資金はどうやって稼いでんだ?」
「は?何を今更。党のエラいさんやら、どこぞの社長さんとこんな事してだって、知ってんだろ?」
「他には?」
「ねえよ…だから何だ?」
どうやら、消された人間の事は、消した人間しか覚えていないらしかった

「じゃあセンセ、哲のことも覚えちゃいねーのか?」
「て…つ…?」
しばらく黙りこんだ後で、
「…誰だそれは?…」
「先生…」
「だが…どうもひっかかる名だな。お前の知り合い…玄人か?」
「ああ。もう会えねえがな…」
近藤は沈む健をみながら、何故か焦燥にかられた。

「俺はこんなことしてちゃいけねえ気がする。何でだろな?もっとでけえ事をしなきゃいけねえ気が…」
近藤は健から体を離した
「なんか…なんか大切なモンを忘れちまったみてえだ…前もあった。前もあったよこんな事」
それでも近藤を抱き締めようとする健
「いいじゃねえか!?俺がいるんだぜ?俺じゃ不満かよ!?」
近藤はちらりと健を見上げた
「…不満だよ…特にそんなおまえじゃあな」
「…じゃあセンセもいらねえ」
ボタンを押すと、近藤もかき消えた
近藤の寂し気な虚ろな表情が、頭にこびりついたまま健は宿舎を出た。

「ちくしょう…」
独りごちて手の中のスイッチに目をやる。
と、後ろから健に声をかける者があった。
「どないしたんやダホ中年。珍しくシリアスやないか」
「ドテ子…」
「あんたにシリアスは似合わんで。ええからうちらのたこ焼きでも買い」
どうやら営業らしい
「…食欲がねえ」
「…嘘やろ!?さては余命三ヵ月宣言でもされたんか!?」
「そんな気分かもな…」
「えらいこっちゃ、行くで!ほら!」
「どこへだよ…」
ドテ子は健の手をひき、振り向くと言った。
「神保さんとこや!」
「…おっさん…?…行くから放せよ、手」
「ダホ中年…」
「何か勘違いしてねえか?俺はおっかねえ男なんだぜ」
戸惑い気味なドテ子の先に立ち、健は教会へと向かった。

やがてたどりついた教会では、神保神父が夕べのミサを捧げていたが、健を見るなり言った
「疲れとるのう」
「別に…」
「まあ座れ…仁、茶を入れてきてくれんかの」
「うん」
茶をすすりながら無言な二人。先に口を開いたのは健だった

「おっさんはいつも『懺悔』だのなんだのをしろって、いつも俺に言ってるよな」
「うむ、自分の犯してきた罪を神に悔いるのじゃ。さすれば…」
「そうすりゃ戻ってくるのか?!なくしちまった大事なもんも!」
「今日はどうしたというのじゃ…。健、残念ながら世の中の全てのものが元どおりになるとは限らないのじゃよ。過ちも購うことは出来ても消すことは…」
「もういい」
「健…」
「じゃあ懺悔なんか何の役にもたたねえじゃねえか!?そんなクソみてえなモンはうんざりだ!!」
「健…失ったのじゃな?」
「…」
「だから言っておったろう?いつも…」
「もう説教はうんざりだ!!オッサンも消えちまえ!!」
深い哀しみを湛えた表情で神保神父は消えた
「畜生…畜生畜生!!」
「…ありゃ?なんでうち教会なんかにおるんやろ。神父さんに知り合いなんかおったっけ?」
「ドテ子!!」
「うわあ!?なんやねん?」
「おまえは違うよな?俺に『消えちまえ』なんて思わせねえよな?」
「なんやねん…いっつもガキみたいな事ほざいとるけど、今日はほんまに…ほんまに…」
「…なんだ…」
「せっぱ詰まった子供みたいな顔しとるやんか…」
「…」
「日暮れてきょったなあ…あ!この時間やったらもうバーに…あれ?何か…うち…大事な人に会いにいかんなん気するのに…」
「ドテ子…そいつは」
もういない、という言葉を飲み込んで健はうなだれた。

「なあ…うち誰と会うんやってんや」
「…そんなの俺が知るかよ」
「なんで思い出せへんのやろ」
悩むドテ子を置いて教会を出る健。薄暗くなった上野の街を歩くと印南がいた

「よう健ちゃん…なんか元気ねえな」
「…んな事ねえよ。博打かい?」
「ああ…今日は気が乗らねえんだが、帰るトコもねえしな。…おかしいんだぜ?なんか、帰る当てがあったような気がすんだよ」
「…」
「ポンで見た幻覚かね」
「…打とうぜ」
「健ちゃんと打てるのかい、光栄だな…そうだ、残りの面子…」
「…」
「おかしいな。これも当てがある気がしてたんだけどな?健ちゃん心当たりないかい?」
「どうして俺に聞くんだ!」
行く先々で自分が消した人々の重み、存在感を思い知らされる。その都度どうしようもなく心に痛みを覚える健だった。

「荒れてるな健ちゃん…またにするかい?」
「いや、今日打つ」
そして二人は押し黙ったまま、一番近くの雀荘に入った。

その日、健は一人バカ勝ちした。
印南は、それをどこか痛ましい目で見つめていた。

「強ェな健ちゃん、さすがだよ」
「…たりめえだろ」
「それが孤独のチカラかい?」
「孤独の…」
「誰をも愛さず、誰からも愛されない者だけが、真の孤独に耐えられるって」
「ああ、俺は強ェよ。だから孤独にだって耐えられるさ」
「そうかい…そうだよな、あんた最強の玄人だもんな」
印南は札を卓に放り投げた
「どこいくんだ?」
「暫く旅に出るよ。ここはいいトコだった…なんでいいトコだったかは分からねえけどな。でも俺も玄人だって事思い出したからよ、一人で凌いで、一人で死ぬさ」
去っていく印南の背中を一瞥し、健は卓上の札もそのままに店を後にした。

一方波止場では。
「おい」
「何でやしょう頭」
「この港の滞在予定は?」
「へい、一ヶ月とありやすが…」
「取引は?」
「大方終わりやした。残った作業もあと一週間そこらで終わりやす」
「こんな無駄な予定…オレが組んだのか?ありえん!何故だ?!」
「と言われやしても」
「そういえば昨日の晩オレはどこにいた?」
「お頭のいい人んトコじゃねえですかい」
「いい人?オレにそんなモンいるか!」
「ありゃ?…そういや…いませんでしたねぇ」
と言いつつも釈然としない小龍

「なんか…忘れてる…」
「忘れちまえよ」
「健健いつの間に…どういい事だ!?」
「覚えてても辛いだけさ」
「おい!?なんか変だぞ、今日のおまえ…いやお前、何か知ってるだろう!吐けよ、健健!」
「知ってるも知らねえもねえさ、皆元からいねえことになってるんだからな」
「お前、とんでもねえことをしやがったな?何かは分からないが…オレの勘がそう言ってる!」
「…」
小龍は健に銃口を向けた。
「お前は死に値する…何故かは分から…ねえが…」
「撃てよ」
小龍が銃を突き付けるのはいつもの事だが、今回はその込められた殺気がいつもとは段違いだった
「お前は許されねえ!!」
少し距離はあったが、小龍の銃口が心臓にぴたりと向けられているのは明らかだった。しかし、それをよけようという気力は健にはなかった

ズガン
発された弾は、確かに当った…

はずだったが、健が目を開けると
「やあしばらく」
「お前はいつかの青狸…確か俺は?」
「今度はかなりこたえたみたいだね」
「…あの道具は…」
「ふふふふ…」
頭の中が雲がかってゆき、やがて目の前がまた暗くなった。

朝になった。だが、起きたくない。起きた所で誰がいるのか
「…まだ忌田がいるさ」
そう思って駈け降りてみるが、天界は廃墟のようになっていた
「いみた…?」
「これは…」
目の前の光景に思わず絶句する健。
と、宅の上に黄ばんだ紙のようなものが。急いで手にとると

『健へ。ずっと待ってたが、少々待ちくたびれた。先に逝ってる。悪運の強いお前のこと、会えるのは随分後になるかも知れないが、向こうで待ってるからな。お前がこれを読むとは思えないが、万に一つだ。見たら捨ててくれ…』

「馬鹿な…!」
「健さん」
「!ドラ!」
「これ…」
そう言ってドラが差し出したもの。
「これが、忌田さんが旅だつ時に使ったロープだよ」
「!!」
「俺は信じねえ!!」
健は叫んで駈けた。行き着いた先はなぜか、バー葵
「まゆみぃ!!」
絞りだすような声で叫んだ健を見た彼女の眼差しは、まるきり他人を見る眼差しだった
「誰?」
「こんな時につまんねえ冗談よせよ…健だよ健!!ノガミのドサ健だよ?お前とは昔…」
「ドサ健?そんな玄人知らないわ。知ってる?お客さん?」
だが他の客たちも一様に首をひねるばかりだった
「…俺も…みんなから忘れられてんのか?」
健の背中を冷や汗が流れた
「俺は…」

がくりとうなだれる健。それを遠目に、
「大分薬が効いたようだね。時空警察のブタ箱ん中も地獄だったけど、今健さんの感じてるのも…。そろそろいいかな」
ドラはニヒルに笑った。

「一人で生まれて一人で死ぬ…淋しいくらいで…丁度いい、か…」
健はとぼとぼと天界へ戻った
「健さん」
「青狸…俺はやっぱり、淋しい位は丁度良くなんかねえよ…」
「全部自分が望んだ事じゃないか?君は玄人だろ?」
「俺は玄人だ…だから」
「だから?」
「敵も、迷惑かける相手も俺には…必要なんだよ!!」
「フ…やっぱり子供だなあ、健さんは。ごらんよ」
「?!」
「ここから広がる上野の街に…いやそれだけじゃなく、この世界全てに、健さんを知ってる人は誰もいないんだ。なんせ、健さんがそんな人間をどんどん消していったんだからね」
「俺はそんなつもりじゃ…」
「という訳でボクも消えるよ…これで君は最強の玄人さ。なんせ絶対の孤独を体験してるんだから。じゃあね」
そう言い残すとドラは消えた。

「ち…くしょう…ちくしょう!!」
気が狂ってしまうか、気絶だけでもすれば楽であるかも知れなかったが、生憎健の強靭な精神はそれを許さなかった。
健は今までの楽しい思い出が走馬灯のように駆け巡るのを感じた…何故か金男や春木の思い出までまじっていたが
「みんな…俺…淋しいよ」
健の頬を伝った涙が、ぽたりと地面に落ちた。
その時だった

「なに泣いてんだよ、クソ帝王」
「木座…?」
「なんだよ…気持悪りい…」
「木座あ!」
「ぎゃあああ!」
木座に抱きつく健。
「このヘタレの臭い…貧相な体…間違いなく、木座…(泣)」
「はっ、放せえ!なんだってんだ?!(泣)」
そして…

「なんだ健、趣味が変わったのか?」
いつものそっけない口調は忘れたくても忘れられない
「哲ぅ!!」
あっさり木座を捨てて、哲に抱きつく健
「…暑苦しい」
だが健はぐりぐりと不精髭をすりつけた
「確かに哲だよな?」
「じゃオレは誰なんだよ?」
「哲う!!」
「暑い…溶ける…」
哲がうだっているのをいいことに
「黒シャツの中も色白なまま…こっちは…」
「ちょ…健、どこに(恥)」
「俺の哲に何してる健!!」
「その声…」
ユウは健を怒鳴り付ける前に、いきなり犬臭い口で口を塞がれた

「んぐ…」
「ゆうひゃああん…」
キスしたいんだか何か言いたいんだかかなり微妙だが
「はな…」
「いや」
「こら健、ユウさんから離れろ!!」
ぶんぶん首を振る健
「もう消さないで、チカラづくう!!」
「何訳わかんないこと…」
「俺、一人いやなのー!!(泣)ユウたん…もう消さないから、ひとりにすんなよ?な?」
「…え?」
何だか捨てられた犬のような目をしている健に、ユウが戸惑っていると
「ユウさん…可愛い…」
「へ?(汗)」

そんなユウと哲二人をひっかかえセクハラしていた健だったが。
「よう、哲っちゃん、ユウちゃんに健ちゃん」
「死神くん!」
「何だかポンでおかしくなってたのか…気付いたら駅にいたんだよ。これから祥ちゃんとこに戻ろうと思って…」
「センセもいるんだよなっ!?」
満面の笑みで問う健
「あ?ああ今日は仕事は休みの…」
「死神くん愛してるぅ(ちゅ)」
「…」
ショックのあまり恐ろしい形相で硬直する印南を尻目に、健は二人を抱えて走りだした
「センセー!!」
勢い良く宿舎の一室を蹴破る。

「な、健?!何しやがんだ犬ちくしょ…んん!」
「(ぶっちゅう〜)すぇんすぅえ〜♪」
「犬臭え!放せ!ん?あ、阿佐田にユウジ?」
「よう近藤…暑い…」
メルティ雀聖にびっくりする暇もあらばこそ
「先生も放さねえ♪」
「おい…は…どこ触って…」
先生のかなりいかがわしい所を掴みながら肩に背負うと。またダッシュで走り出した。

「どこ行きやがんだ犬!!俺には金男と約束が…」
「金男?」
「いや阿佐田(恥)…なんでもない」
「乙女なセンセ萌え♪もう離さないかんな♪」
「いいから離せ!!」
「絶対いや、一人いやすぎ!!俺ハニー達と一緒なのー!!(泣)」
みなをひっかかえたまま健は…
「ん?おいそっちは!」
どっぽーん…
海に飛込んだ。

「何だ?」
近くの船から下をうかがい見るのは。
「龍龍〜ん♪」
「健健?何だ黒シャツも…こ、近藤?何をこんなとこでいちゃついている!」
「違う、この犬がよ…」
「とにかく上がりなせえよ、ズブ濡れでやすよ…」
引き上げて見るとユウもいた
「へっへっへ、俺のハニー達いいだろー」
「何を今更…ってか近藤はオレの」
「ん?」
「クソ、黒シャツがいると話が面倒だ…うわあ!!何しやがる!?」
「俺ってば心の広い帝王だから、俺を撃った龍龍でも許してやっぜ?」
「訳わかんねえ事言わずに離せ!!」
「やだ」
野郎ばかりが何人もバシャバシャやってるのを遠くでドラが目を細めて見つめ、微笑んでいた。

「あんなにはしゃいで…よっぽど寂しかったんだね健さん…ねえ忌田さん?」
「本当仕方ない奴だよ…」
「まあ…馬鹿な子程可愛いって言うからなあ…」
「うふふ、お互い苦労するねえ」
なんて言っていると、両手と口にハニー達をくわえた健が突進してきた
「いいひゃー♪」
そして足でひっかかえた

「健!お前どこに…!(恥)」
「忌田さん不本意なはさまれ方だねえ…健さん、でもそれじゃもう持てないねえ…」
「ひひぇるひひぇる(いけるいける)♪」
「そう?じゃあ、あらかじめ呼んどいたから」
「ふぇ?」
「…ご機嫌ね、健」
ゆっくり煙草をふかしながらまゆみ様は言った。

「まゆみ…」
とりあえず、口にくわえた小龍をおっことして喋る健
「俺の事、思い出したのか?」
「ふふ、思いだすも何も、脳みそはなくても存在感だけはやたらあるじゃない」
「まゆみい!!」
抱きつこうとした健だが、
「調子にのりないで」
あっさりヒールで踏まれた。だが、まあそれはそれとしても嬉しい健だった

元気を取り戻した帝王。
「よしっ!これから萌え水浴なっ!♪」
「冗談じゃねえ!」
「…ユウさんや近藤の肌がみれるんだ…いいな」
「阿佐田?!(泣)」
というてんやわんやの一部始終を見ていたドラ。

「さて…僕も帰るかな。やっと塀の外に出れたんだ…会いにいかなきゃ。健さんまたね」
そう言い時空の穴に消えた。

すぐに元に戻った健を微笑ましく見つめていた忌田さんだったが、ふと気付いた
「もしかして…まったく懲りてない?」
「うわーい♪ハニー達いっぱぁい♪わんわーん♪(もみもみ)」 所詮犬なので、後悔しようにも記憶力がないのだった。そんな忌田さんを見て、まゆみさまは言った
「フ…人には居場所が必ず用意されてるのよ。貴方の場合はそこのようね…」
「股ぐらは勘弁して下さい(泣)」
「ん?忌田股嫌?じゃくわえるー♪てかうなじ噛んじゃえ♪がじー」
「ひっ…痛っ、やめなさい!(泣)」

その頃。
「祥二君、出ておいで…私をじらすなんて悪い子だね、ハアハア」
金男が宿舎の前で放置されてたんだって。
ちなみに客のいない劇場に春木もたちすくんでいたという。
そしてわんこは全くいつももままでしたとさ。

で後日の一杯飲み屋
「なあ親父…孤独を知り、オトナになるってどういう事…なのかなあ(泣)」
「お客さんはもうご存じに見えますがね」
「いや俺でなくてさ(泣)」
忌田さんが親父に愚痴ってたんだってさ。




ドラえもんの生まれた二十二世紀は理想社会のようですが、時空犯罪者のためにタイムパトロール制度が完備されていたり、「地球破壊爆弾」なるものが、子守ロボットのおこづかいで買える値段で売られていたりと、なかなかな社会のように思えます。
なにより二十二世紀の暗部を感じさせるのがこの「独裁者スイッチ」です。ドラっちは
「これはね、独裁者を懲らしめるためのスイッチなんだ」
といっていますが、何度も繰り返しますが、子守ロボットのおこづかいごとき値段でどうして独裁者をこらしめる機械が買えるのか?二十二世紀にはそんなに独裁者が多いのか、二十一世紀に独裁者が多発して人類が絶体絶命の危機に陥ったため、過剰なまでの防衛システムが発達し、このスイッチはその一環なのか…
ともかく、ほんわかしていて楽しそうな二十二世紀の暗部を垣間見させてくれるエピソードであると思われます。