青狸リターンズ 第三話「ジーキルハイドン」
「やあ、久しぶり」
その特徴のありすぎる声に健が振り向くと、青い狸状の生物が立っていた
「お!お前はいつかの青狸じゃねえか。元気してたかよ」
「うん。あれから時空警察のお尋ねものになっちゃってね。高飛びの最中…かくまってくんない?」
「またいつかの面白い道具貸してくれんならいいぜ♪」
「もう前科者だし、堕ちるとこまで堕ちるよ。これなんてどう?」
「薬?」
「ジーキルハイドンだよ。これを飲むと性格や性質がいつもと正反対になっちゃうんだ」
「いいな!おい♪借りるぜえ♪あ、上野の外れの雀荘行けよ、天界つー名前なんだ。そこなら忌田が世話してくれっから」
「恩に着るよ…」
気○いに刃物を地でいってしまう健は
「えへへ、どっしよっかなあ♪」
わくわくしながら歩いた
「何か楽しい事があったのか?髭乙女」
「ラバりーん♪」
獣の目が光る
「喉乾いてっよな?」
「あ?ああ仕事帰りだからな」
「飲む?」
と茶に混ぜて差し出すと、青だぬきの存在や秘密道具なんて夢にも思わない彼はぐいと飲み干した
で
「…健?」
「なんだラバりーん?」
鋭くて、どきっとするくらい色気に満ちた目で健を見据えるラバ
「意外とうまそうじゃねえか」
獲物を狙う肉食獣のような目でラバは言った
「…そうきたか。しかし…クラクラしちまいそう俺」
びっくりするほど魅力的な外道攻めになってしまったラバ。
その目は多分、忌田さんだって落とせそうなくらいの妖しい魅力があった
「抱いてやろう…最高の気分にしてやる」
「うほー♪ラバりんすっげえ鬼畜攻めぇ♪おい、俺は高いぜ?まあ満足させてくれんなら、話は別だがよ」
「俺をナメるなよ」
その時
「あなたっ!その髭の生物から離れて!」
途中まで迎えに来た碧が叫んだ。
だが、ゆっくり振り向くラバの目を見て、一瞬碧はたじろいだ。
「あな…た?」
口元に妖しい笑みを浮かべ、ラバは碧に近付くと
「…ん…?んん!」
「おおお、ラバりんすげええ!!」
濃厚極まるキスの後、驚きつつも恍惚状態の碧にラバは呟いた。
「どうだ碧」
どうだも何もショックと恍惚で何も言えない碧
「ふふ…可愛い奴だな」
その台詞にムラムラ来た健は、自分もラバに抱きついた
「俺にもキスしてくれよ…そんなにやわじゃないけどな」
「いいぜ、腰抜かすなよ」
碧を片腕に抱きつつも不敵に攻めなラバ。
割と本気で健が
抱かれたいなあ♪
と思った時だった
「なにしてんだ健」
変態政治屋が通りかかり…
ずびし!!
ラバの外道攻めな眼力に一撃でやられた
「あんたは確か…天惚け画家の…」
言いながらフラフラと歩み寄る先生。
「ほう、これはまたソソるのが来たぜ」
不敵に笑うラバに、健は性獣として少し対抗意識が芽生えた(笑)
「…だ、抱い…」
完全に色香にあてられてる近藤を、健はラバから離れて抱きすくめた。
「健、俺はあの兄さんに…」
健は突然近藤の唇を覆った。
「?!」
近藤の喉がゴクリと動いた。
「へへ…」
「な、何を飲ませた…健…あ…」
突然所在なげに目線を落とす近藤。
「どうした先生?」
健が腰に手を回そうとするのを振りほどく。
「やめ…ろ、馬鹿。こんな所で!(恥)」
「うわあ♪恥じらい先生だー!!(嬉)萌え!!♪」
変態改めリリカル政治屋誕生。
恥じらう先生は、いつもと全く違って非常に新鮮だった
「…じゃ、ラバりんと俺とリリカルセンセで3Pしよう、そうしよう!!」
「なんだ?俺が二人まとめてか?」
「抱かれたいけど抱きてーし♪」
「いや…そんな恥ずかしい」
なんて大騒ぎする中、碧が感付いた
「その薬なによ」
「あ、バレた?」
「あなた、許して!!」
叫びながら碧は、ラバのみぞおちに轟速の蹴りをかました。
「…う!?」
薬を吐いたラバ。
「…ゲホ、碧?…と髭乙女…俺は、どうしたんだ?」
「やっぱうちの人を薬で…。エロ髭!そんなに捻り殺されてえか!!ああ?!」
「でも碧ちん感じてたじゃ〜ん!!」
「健、や、やめ…(赤面)」
リリカル近藤にセクハラしながら言う健。
「それは…」
「鬼畜攻めなラバりんも素敵じゃんかよ♪みんなでやろーよー」
「調子のんなファック!!」
碧が本気で絞め殺そうとしているのを見て健は
「まあいいや。外道攻めなラバりんとは次やるから。またなラバりん♪今度までにためまくっといてくれよ」
「…何をだ?」
「じゃリリカルセンセに羞恥プレイだ!!縛ってあえがせて…えへ」
「やめ…頼むからやめてくれ」
「いや、やりまくる」
嫌がるセンセをひきずって歩いていると
「貴様…オレの近藤に…」
「た…助けて…しゃお…」
「…いつもの近藤じゃない!?てめえ!何しやがった!?!」
「小龍…」
怯えた猫のような目で自分を見る近藤に、小龍は嗜虐心とともに苛立ちを覚えた。
「くそ、健健…よくも!早く元に戻せ!」
「龍龍〜リリカルなセンセも可愛いじゃんか♪」
「オレが好きなのはなっ!くそっ…」
黙りこんでうつむく小龍を見て、健はまた悪戯心を起こした。
「このままでも俺は一向にかまわねーがな♪」
「許さねえっ!!そんなのっ…」
「じゃあよ…」
健は人間離れした素早さで、小龍の口に薬を放り込んだ
「ごく…何を!!?」
「龍龍はどうなっかなあ」
「小龍…」
「まあセンセも見とけよ」
「いや…そんなトコ触…」
「そんな可哀相な事やめろよ」
「ほあ?」
「人類はみな兄弟なんだから仲良くしないと」
「小龍が…」
「博愛主義者の正義の味方になった」
「近藤…いつも素直になれなくて悪かったよ…。オレはお前がいないと駄目なんだ。頼むからオレの側で、いつも笑ってて欲しい…」
「しかもやたら優しいぞ?!」
「健健、お前にもいつも辛くあたって…。皆に愛されてるお前が羨ましくて…」
あまりに真っ直ぐな小龍の視線に
「…何か調子狂うなあ…」
あくまで天邪鬼な健だった。
だが恥ずかしがり屋のセンセは頬を赤らめながら
「そんな…俺こそ…」
ともごもごしつつ嬉しそうだった。
つまり、健さま邪魔
「…ちぇ」
つまんないので立ち去る後ろで、小龍の部下達が騒ぐ声が聞こえた。どうやら公開処刑にする筈の部下を、無罪放免にした様子。部下たちはいつもと違うお頭を喜ぶ余裕などなく、ひたすら怯えていた。
そして、鼻唄まじりに目的地へ向かう健様。
「ゆっうた〜ん♪」
「何だ健、俺はこれから打ちにいくんだ…」
「キスしよーぜキスぅ♪」
ぶちゅう
「ん…ぐ…」
どうなるか期待に満ちて見守る健。
と。
ドン!
「うお?!」
ユウはからみついてた健を乱暴に薙ぎ払った。
「おい、何ベタベタくっついてやがる、気色悪い。お前のカラダは好きだが、それ以外てめえには一ミリの興味もねえんだ。このクソが」
「ユウたんが…非情だ…」
これぞ一匹狼!
といったワイルドさでヤサを出ようとするユウに、いつものように食欲を刺激され抱きつこうとする健。だが、甘さのない今のユウにはとりつくしまがない。さすがに容赦なしで殴り合ったら思いを遂げる所でなし…
「ユウたんつめてえ」
「馬鹿かてめえは」
クールなロンリーウルフがそう吐き捨てて戸を出ると
「ユウさん」
「哲か」
「ユウさん…何だかいつもと感じが」
「何か用か?」
「え?う、うん…。ユウさんに似合いそうなワンピース見付けたから一緒に見に行こうかと」
「哲。俺たちは玄人。賭場じゃ敵同士だ。甘ったれた事言ってんじゃねえ」
「ユウさん…」
「おお!いつもじゃ考えらんねえ台詞♪」
「今日のユウさん…何か房州さんみたい…格好いい…(うっとり)」
「俺はこれから打ちにいく。哲、お前はどうすんだ」
「うん!オレも打ちにいくよ!ユウさんに付いてく!」
「…好きにしな」
そしてやたら男前のユウは、子犬のような哲を引き連れ行ってしまった。
「…あんなユウたんも美味そう…けど、つまんねえ…」
哲にのませるのをうっかり忘れた健さま。
変わって天界
出勤してきた木座神は
「こんにちは、今日もお疲れさま(大山のぶ代ボイス)」
「あ、新しいパートの人…!?」
だただ!!
「い、忌田さん!?ドラ焼きなんか焼いてる場合じゃないスよ!?狸が…デカくて青い狸が天界の庭の草むしりしてますよ?」
「ああ、俺が頼んだんだ。だいぶ伸びてきてたからな。おーい、ドラ!?そろそろおやつにしようか。ドラ焼き焼いたから」
「わーい、ドラ焼きだあ(大山のぶ代ボイス)忌田さんの焼いたドラ焼きは美味しいなあ」
「そうか、誉めてくれてありがとよ」
「そんな生物と普通に会話しないで下さい!!忌田さん!?(泣)」
「木座…最近思うんだが…見た目は人間でも中身が鬼畜生の類よりも、外見はあからさまに人間でなくとも常識があって話が通じる…そんな奴の方がよほど人と名乗って然るべきなんじゃなかろうか?」
「はい…(泣)分かります、分かりますが…聞いてて何か痛々しいですよ!(泣泣)」
「おにーさん、忌田さんのドラヤキ、すっごく美味しいよ。一緒に食べよう?」
「…い、いい奴だなお前!本当いい奴だな!(泣)忌田さん、やっぱり貴方の言う事正しい気がしてきました(涙)」
「苦労してんだねえ。まあ僕も時空警察の臭い飯を食うのがやだからこうしてる…。ロボットの屑だよ。かいかぶらないでね」
寂しく青狸は微笑んだ。
かくしてヘタレと猫型(本人談)の間に優しい仲間意識が生まれた
「サツに追われてるのか…大変だな」
「まあね」
「しかも、うちの健と関わったからだそうだな」
「うん、あの人はこれから…ぐうっ!!これは言っちゃいけないんだった(ガクブル)」
「聞いたら絶望しそうだから聞かないよ(泣)これからどうするんだ?」
「あいつらはどんな時代のどんな場所にでも現れるからね…。まあここらにはドサ健や坊や哲がいるから気の乱れが激しい…。しばらくは安全だと思うけど」
「償いの意味も込めて、よければしばらくここを使ってくれ」
「恩に着るよ!」
とか青狸たちがやってる頃。
「つまんねーなー」
「何しとんねんダホ中年」
「おほっ、ドテ子♪」
次なるターゲットが決まった。
「なんやねん。その嬉しそうな顔は」
「ドテ子ぉ♪喉かわかねえ?」
「なんか企んでるやろ」
「そんな事、ないない」
「飲まへんで」
「あっ!!哲がメイドだあ!!」
「何!?」
「とりゃ」
「う…ごく」
「どうなっかなあ♪」
「いやですわ。何をなさるの?」
「お嬢様だあっ!!」
「私、哲様を探しにいかないと…失礼」
「ちょーっと待てよぉ♪お嬢なお前も新鮮でいいぜ♪な、これからしっぽりしよーぜえ」
「こんな場所で何おっしゃるの…信じられませんわ」
「ん?ドテ子に、ドサ健?!何でお前がここに!」
「あ、リーゼントだ」
「この方、言う事が下品で困ってますの。どうにかしてくださらない?」
「どど、ドテ子が変だ!!(泣)どーしよう!!(泣泣)」
「まあ、わたくし、いつもこうですわ。失礼な」
混乱するリーゼントにドテ子を渡す健さま
「ちぇ、結局まだ誰も食ってねえし」
つー訳で目指すは天界。
忌田氏…の筈が
「貴様、見た目は人間のクソ帝王!!」
「よし」
ヘタレに飲ませてみる事にした
「おい木座」
「なん…ゴク…」
「何が出るかなー♪た〜のしい〜♪」
ゆっくり顔を上げる木座。
「お?なんかヘタレ臭さが…けどそれよか…」
「帝王…オレを抱いてくれよ?」
「…エロ木座、かよ」
木座からいつものヘタレオーラが消えていた。
更に
「何かすげえ悪女?で淫乱っぽいな…へえ」
いつもの彼からは想像も出来ないような、何だか凄まじい色気を発する木座に健は歩み寄った。
「食っていいよな」
「…」
無言ながら艶然と微笑む木座
「いっただっきまーす♪」
がばり、
といこうとする健だが
「何してんだ!!?」
「忌田…だって木座がうまそうなんだもん」
「木座…何があったんだ?」
「忌田さん…オレ、あくまであなたが本命ですよ…だから…」
「…?」
「二人がかりで…来て…」
艶っぽい流し目でそう語る木座に、あわれ、忌田さんは固まってしまった。
「木座…今日のお前最高にイカすぜ?」
「ふふ…」
あやしげな雰囲気になった三人に、青狸が割って入った
「小○館の最後の良心にかけてそれはダメだよ!!」
「俺はやだ。食う!!」
「…こうなったら仕方ない」
青狸は言って猛然と突進して、健の口に薬を放り込んだ
薬を飲み込んだ健は、しばらく無言でつっ立っていた。
「健…?」
がばちょ
「ひい…ん(泣)狸が、いぢめるよう…怖いよう…(涙)」
「うちの子が!!(泣泣)」
青狸は何か問いたげな忌田に
「…滅茶苦茶しおらしくなっちゃったみたいだね…まあ平和なんじゃないかな」
「ひっく、ひっく…もう俺、おんも出たくないよう」
「けーーん!?シッカリー!!」
人見知りの激しい幼稚園児のようになってしまった健を見て、青狸は言った
「それでも忌田さんは安心出来るんだね」
「こわいよー忌田ー、忌田がいないと恐いよー」
「ん?ああ…そんなに恐がるな。俺がついてるだろ」
「うん」
純真な瞳で忌田を見上げるジャリガキ中年。
青狸は
ふっ、
と笑った
「いいモン見せて貰ったよ。ボクも、自分トコの子の顔をみたくなった」
「あんたも子供が?」
「いや…弟…みたいなモンかな。何やっても駄目で馬鹿で碌でなしで怠け者なんだけど…すごく大事な友達なんだ(いい笑顔で)帰ってやらなくちゃ」
「だがあんたサツに追われて…」
「いいんだ。それでも…」
青狸の強い決意の表情に、忌田は何も言えなくなった
「じゃあね忌田さん。ドラ焼き…ごちそうさま」
「ああ、うん…あんたの友達によろしくな」
「それとさよなら、健さん。○学館向きじゃなかったけど、君の事は好きだったよ」
「…青狸…」
「さよならっ!!(時空の穴に飛び込む)」
「待て!!青狸!!…さよなら!!また来いよ!!」
時空の穴の向うからは
「ありがとう、またね」
という微かな声が聞こえた…ような気がした
「忌田…」
「健…」
せつない別れの余韻から醒めた忌田氏が見たのは、性格が反転したまま残された人々だった
「どうしよう、これ(泣)」
多分薬だからいつか効き目も切れるだろう
…しかし…
「いつ切れるんだろう(泣)」
「帝王…泣き顔のあんたもいい…ほら、抱いてくれよ…フフ」
「忌田ー、木座が怖いよ!怖いようー!うええ…(泣)」
「…」
忌田は思った。
自分もあの薬でブットんじまった方がまだ楽だったかも…、と。
天界に射し込む夕日が目に染みて涙がにじんだ。
世界が崩壊したって、あの声だけは死ぬまでやってくれると思ったのに…残念です。
でも、大山のぶ代さん、長い間お疲れ様でした。どうぞこれからはゆっくりして下さい
なんて、こんな駄文の後書きで書いてもな