健さまをぎゃふんと言わせよう編

毎度毎度の健の傍若無人な行動に、遂にユウはキレた
「もう許せねえ!!健の奴にぎゃふんと言わせてやる」
「…で何で俺も呼ばれてんだ?」
そんなユウに呼び出された近藤議員
「あんたも腹立ってねえか?」
「別に」
「俺は許せねえ!!毎回毎回人の気持ち踏みにじりやがって!!だから協力しろ」
「だから何で俺が」
「…哲、お前の友達のとびっきりの秘密教えてやろうか」
「近藤の?」
「あっ…阿佐田!?」
「(小声)手伝わないんならあんたが真性Mだって事や小龍のイロだって事も全部バラすぜ?」
「畜生…人脅しやがって…分かったよ」
「ところでユウさん?今日は一体何をするんだ?」
「健の奴をぎゃふんといわせるんだ!!」

まず一行はバー葵を訪れた。
「いらっしゃい…まあ今日は賑やかね」
「なあママさんすまねえが…ちょっと協力して欲しいんだ」
「フ…健のことかしら」
「ご明答。あのな…」
ごにょごにょ何だか相談するユウたち。
そして
「じゃあ頼むぜママさん」
「フ…任せて」
「よし、次の協力者だ。忌田んとこ行くぞ!」

かくして健に親しい者たちの所へ行き何事か言い含めユウたちはヤサに帰ってきた。
「奴がここに来てからが作戦開始だ!」
「気がすすまねえがな」

さて何も知らない健が天界に行くと忌田は留守だった
「忌田さんは仕事で一週間は帰らねえよ」
「何だ…」
それから健は行きつけの店に色々顔を出したが馴染みの人間はみんな留守か、忙しすぎてまるで構ってくれなかった
「…いいもん。ユウたんがいるもんね」
勢い込んでユウのヤサに飛び込んだ健は、今度は飛びきりの歓迎に会った

「健…ちょうど飯が出来たトコだ。食うか?」
「ユウたん…」
いきなり抱きつく健だが
「おいおい…お楽しみは飯食ってからにしようぜ」
今日のユウは嫌がらなかった
「なあ聞いてくれよユウたん、なんか今日はユウたん以外みんな冷たいんだぜ」
「…じゃあ俺が暖めてやるよ…今日はずっといてくれんだろ?」

「(押し入れの中)何だかユウさんどんどん演技が達者になってるな…なんでデビューしないんだろ」

無邪気にユウの手料理をぱくつく健の横でユウはあくまで穏やかに微笑んでいた。
「ユウたん今日はいつもにも増して優しいな。何で?」
「いつも言ってるだろ寂しい奴には腕くらい貸すって」
「ユウた〜ん」
「ほら行儀悪いぞ、ちゃんと食え。うまいか?」
「うめーよぉ♪」
「なあ健俺言わなきゃいけねえことがあんだ」
しばらくして、どこか哀し気にユウは微笑んだ。
「?どーしたんだ?」
「実はな…俺…長くねえかもしんねえんだ」
「…え?」
健の眼差しが険しくなる
「どういうこった?」
「…心配しなくてもうつらねえよ」
「何の病気なんだ?」
「…脳腫瘍らしい。若い人間の腫瘍は進行がはやいから…気付いたらもう手遅れな事が多いんだってさ」
「まさか…いつもと変わらねえじゃねえか」
「少し頭が痛むかな、とは思ってた…こないだすげえ頭痛に襲われて医者行ったら…もう三月も保たねえってさ」
「おい」
「こんな稼業だ。白髪になるまで生きれるたあ思ってなかったよ…だが人生があと三月たあな…」
ユウは寂しげに微笑んだ
「今日はいてくれんだろ?…抱いてくれよ…」
「医者を探す。最高の医者を…」
そういって立とうとする健をユウは制止した。
「無駄だよ…哲に話したらあの代議士先生に連絡してくれて…向こうでも色々、海外にも当たってくれたみてえなんだが…今の医学じゃどうにも」
「まじ…かよ?」
「健。後生だ、側にいてくれ。短い付き合いだが俺は…お前を」
「…」
ユウはどうしようもなく慈愛に溢れた眼差しで健を見つめた
「愛してるよ…どうしようもなく愛してる。こないだ捨てられたかと思った時は気が狂いそうだった…あと三月だけ…三月だけは捨てねえでくれ」
健はしっかりとユウを抱き締めた
「しねえよ…呼吸が止まるその時まで抱いててやる…」
「健…」

押し入れの中
「よしすっかり騙されたみてえだな…どうした阿佐田」
「健の奴…やっぱユウさんに本気なのかな…オレ…ユウさんへの愛情だけはあいつに負けてねえつもりだったんだけど」
「まさか阿佐田…あいつの事」
「男に惚れちゃおかしいか?」
「いや…それがお前の選んだ道なら」
「優しいな近藤」
哲の無邪気な笑みに近藤はとうに失った罪悪感がキリキリ痛んだ
「…次の計画いくぜ阿佐田」
「ああ」

哲は軽い身のこなしで押し入れから天井へと上がった。
そしてランプをかかげ宿の主人に合図を送った。

ユウの部屋の戸を叩く音。
「お客さん、開けてくれ。健て人来てないか?」
不審そうに戸を開ける健
「なんだ?」
「あんたに電話だよ」
「すぐ戻る」
「ああ…」
健は奥で電話の受話器を取った。

興奮した声が聞こえてくる

「おい帝王…大変だ大変なんだ忌田さんが…忌田さんが」
泣き声の木座に健は言う
「はっきり言え!!」
土地買収のいざこざで刺されて…意識不明だって…」
「何だと!?」
慌てて飛び出しかけた健だがユウの事も気になる
「…ユウ…忌田が…」
彼にしては珍しく声を奮わせながら説明する健にユウは優しく言った
「行ってやれよ。俺はまだ即死はしねえよ」
「すまねえ…」
健がヤサを飛び出すのを見計らい近藤は押し入れから出た
「名演技だな」
「まだまだ序の口だぜ…次はママさんだ」

そしてしばらくして。
健は病院の集中治療室の前にきていた。
「…あ…」
病室前のベンチに座る木座神が顔を上げた。
「おいどうなんだ忌田は?!」
「う…それが…」
かき曇る木座神の顔を見て舌打ちすると健は病室のドアに手をかけようとした。
「やっやめろ馬鹿っ!!」
「うるせえ」
「やばいんだよ本当に…!今夜が…ヤマだって…(泣)」
「な…に?」
「帝王、俺どうすりゃいい?…もし、もし忌田さんが死…」
「馬鹿野郎っ!!」
一喝すると健は廊下の壁に拳を叩きつけた。
「ありえねえ。奴がこんな所で…」
「帝王…」
「近代化の夢ほっぽって…俺に一言もなしにいっちまう…んな半端な男じゃねえだろ、お前は!忌田!!」
病室に向かって健は叫んだ。
「ずっと俺の側にいるっつったろ?!ブラフじゃねえなら生きて俺の腕ん中戻ってこい!!」
そしてしばしの沈黙の後。
「風にあたってくる」
そう言い病院の外に出た健を意外な人物が待っていた。

「まゆみ……どうしたんだよまゆみ…何か用か」
「ええ」
何の用、問い掛けた健に彼女は先に答えた
「最後の…本当に最後のお別れをしに来たの」
「別れ…」
俺たちゃとうに別れてる…少し腹いせのように言ってやりたかったのだが彼女は意外にもこう言った
子供がいるのよ …今の男の子ども。だから水商売から足洗ってよその街でやりなおそうと思うの。その人と子供と一緒にね」
「バーはどうする!?」
「閉めるわ…だからもうこれきりよ。あなたとは二度と会わない。さよなら健」

「ふふ…健のあの顔…いい気味だ」
「手の混んだ洒落だな。ところで木座はすげェ演技だったが…」 「いやありゃ本気で忌田が死にそうだと思ってンだ」
「本当か!?」
「これは健の奴をびびらせる企画だろう…気の毒じゃないか?まあ俺にはどうでもいい事だが」
「大のために小を捨てなきゃなんねえ時もある…まあ木座神には後でフォローいれればいいさ」
「敵にまわしたくないなお前…にしても健の奴…放心状態みてえだな」
「ああ、いい薬だ。さて仕上げにかかるぜ」

暗い面持ちで病院の中へ戻る健は小さく呟いた。
「寂しいくらいがちょうどいい、か…くそ…!」
先程と同じ様に座り込んでいた木座は健を見ると呟いた
「てめえのせいだ…」
「何?」
「てめえが総帥の癖にフラフラしてっから…忌田さんは無理な買収計画も何もかも全部自分でやってたんだ!!だから忌田は表出てる分恨まれてる…てめえの代わりにな!!危ない思いだって今が初めてじゃあねえ…」
「…忌田はンな事一言も…」
「くそ野郎!!とっとと失せろ!!この疫病神が!!」
健は一言も返さず立ち去った

そしてユウのヤサに最後のよすがを求めて戻った健の目に写ったのはユウ…と親身に寄り添う哲だった
唇の動きを読まずとも二人が囁き合う内容は手に取るように分かった。
哲はユウの胸に顔を埋め静かに泣いているようだった。
寂し気に目を細めると、健は無言できびすを返した。
向かった先は…。

木々のざわめきの中上野公園のベンチに健は一人座っていた。
速攻追い付いたユウたち。
「おい…まじか…健の奴あんな顔出来たのか」
「思い知れ…だが…ちょっとやりすぎたか…?」

健は自虐的に微笑んだ。
分かっていた筈なのだ…今持っていた筈の物が次の瞬間になくなるかもしれないなんていう事は
(しかも俺のせいだ…)
泣きたい訳ではない
「一人で生まれて一人で死ぬんだ…俺もあいつらも」
しばらく居心地が良すぎて覚悟が温くなっていた。

足音

「聞いたぜ健…」
「先生か…」
「今度こそ本当に一人かよ」
「何か…用か?先生」
「…いや、また今度にしよう」
「言いにくい事なら今言ってくれ」
「…分かった。俺は洋行することになった。急な話だが」
「…先生が?」
「ああ。政府の復興政策で…向こうの都市計画とやらを見にな…」
「長えのか?」
「ああ…いつ帰れるかは今の所全く。お前とは色々あった…名残惜しいな」
「海はつながってる。龍龍とは会えるじゃねえか」
「それが救いだ」
「忙しいんだろ。行けよ先生」
「じゃあ…またいつか…」
「俺は多分くたばってるさ…」
少し哀しそうな視線を残し近藤は去っていった。
顔を上げずその足音だけを健は聞いていた。

茂みの中で
「さ…一応これで全計画終了だが…これからどうすんだ?」
「とりあえずしばらく楽しく眺める」
と言いつつあんまり楽しくなさそうなユウ
「ユウさん…でももう楽しくないだろ?」
「ンなこたねえよむちゃ楽しい…」
「ふ…甘いてめえだ、自分でハメといて気の毒になったか?」
「…あいつなら平気さ…孤独に耐えられる真の玄人なんだからな」
そう答えつつユウは思った。
孤独に耐えられても痛みを感じない訳ではない…そう言った健の言葉を
「健…」
以前騙された時、本当に捨てられたと思ったあの時に自身が感じた孤独感を思いだし、ユウはやるせなくなり呟いた。
「行ってやろう…奴のとこへ」
「そうだな」
「先生…ママさんと忌田に連絡頼めるか」
「ああ」
茂みから出てゆっくりユウと哲は健に近付いた。

「健…」
そう呼び掛けると彼は頭を上げた。
「動き回っても大丈夫なのか?」
「健…」
「大人しくしてろよ」
「…健…」
深い哀しみを湛えた健の瞳にユウはもうそれ以上演技を続ける事が出来なくなった
「健!!」
ユウは健を抱き締めると叫んだ
「違うんだ…違うんだよ…これは全部…ブラフだ」
「な…に…?」
「お前がこんなに…落ち込むなんて思わなくて…悪い…悪かったよ!…健」
「…じゃあ余命三月ってのは」
「俺は健康そのものだよ…」

更に歩み寄る人影。
「…健」
「まゆみ?!出ていったんじゃ…」
「私に子供はいないわ…それに独り身よ今の所はね、フ…」
「…じゃあまさか」
決まり悪気に近藤の後ろから姿を見せたのは
「…忌田!お前…」
「ずっと聞いてたお前の言葉、病室ん中でな。すまねえ…でも嬉しかったぜ…」
「もう分かったろう。俺の洋行の話もデッチアゲだ。いつもお前が皆にしてることだ。たまには逆の立場味わうのもよかろうさ」
「ブラフ…ブラフか…俺がこんなに綺麗に騙されるなんてな」
健は少し笑った
「さすが玄人…三人寄りゃ俺より強力か」
「…これに懲りたらもうタチ悪ィいたずらすんじゃねえぞ」
「はっはっはっ…懲りたよ懲りた。完敗だぜ」
健は無茶苦茶爽やかに大笑いした。さすがに反省したのかな…なあんてユウが思った時だった

ガシャン

耳慣れない金属音。
「ユウさん…それ…」
「え?」
ユウが自分の手をみると
「てっ手錠?!健っ!!」
ニヤリといつもの数十倍凄みのある笑みを健は返した。
そして手錠のもう片方を自分の手にはめる。
「おっ、おい健…」
同様に手錠をはめられた忌田が戸惑いながら叫んだ。
「こうしてりゃあずっと離れずに済むぜ♪」
「かっ鍵はどこなんだ?!」
「不忍池の中♪さあこれで寝ても醒めても一緒だぜ!!これなら全然寂しくねえなっ♪」
「いっやああっ!!!(泣)堪忍してえっ!!って忌田お前何ちょっと嬉しそうな面してんだよ!!」
「ふんふ〜ん♪ユウたんと忌田と一緒〜♪」
「相変わらず迷惑な男ね…フ…」
そして野郎三人の地獄の共同生活が始まるのだった。

ぎゃふん…

ユウは自分でそう呟いた…という


うちの帝王は三歳児並みのダダっ子&さみしがりやです