近藤先生政略結婚編

それは健と小龍の何気ない会話からはじまった

「なあ龍龍?お前センセに浮気されていっつも怒ってるけど、そんなにムカつくもんか」
「たりめえだ!!」
「何でそんなにムカつくんだ?」
「何で…って…そりゃ…腹立つだろ普通」
「俺平気だもん」
「そりゃてめえがおかしいんだよ」
「そうかな…龍龍って思ってたより小物じゃんか」
「違う!・普通の奴は嫉妬するもんなんだ!」
「えーだって俺のハーレムじゃさあ、哲は別にしても、忌田もユウたんも俺がかたっぽ相手してても気にしないし。やっぱ独占欲強すぎるんだよ龍龍は」
「いや…やつらはもうあきらめちまってんじゃないのか?お前の非常識っぷりを」
「んーまあ嫉妬する気持は全くわかんねーがよ、されるのって楽しいよな♪うん、全く問題ねーじゃん♪」
「ありすぎだ、本当タチ悪い男だなてめえは」
「…龍龍もされてみろよ」
「近藤にか?」
「おう、嫉妬したセンセもきっと素敵だぜ」
小龍しばし考える
「…あいつ…嫉妬しねえかも」
「なら別に本命いるか、龍龍の事愛してないんだぜ(嬉)」
「何!?…そういやこないだの隠し女の事もあったし…畜生、オレに隠して誰かと…」
「きっと犯ってるぜ男女問わず!!センセ淫乱だからきっとお前一人じゃ満足出来ねえんだよ」
「くそやっぱりか!!絶対調べ上げて吐かせてやる!!」
だだだ
「…あ行っちまった…そっか、あれが正しい嫉妬なんだな(しみじみ)」

小龍が駆け出して行ってからしばらくして、健が一人麻雀をしていると彼は戻って来た
「よお?見つかった…」
冗談で聞いた健に小龍は答えた
「女がいやがった…」
「ん?暁実ちんの話ならあの娘はとうに別れたし、もう一人の芸者の方ならありゃただのカモフラージュ…」
「違う!!あいつ…どっかの政治家の孫娘かなんかとの縁談が出てやがった…」
「ふーん何かそれってセーリャクけっこんとかゆうやつのお膳立てか?」
「たぶんな。てかあいつ身固めるつもりか?!そして相手の女だが、近藤の好きな巨乳らしい!!くそ!あんな非経済的な物体の何がいいんだ!」
「えー触り心地?」
「近藤の奴、ゆるさんぞ…オレが主なのに!!」
「あ〜やっぱ嫉妬してる奴は萌えだな♪龍龍俺とやろーぜぇ〜!」
ドバキ。健を殴ると小龍は
「哭かせてやる!待ってろ近藤」
と殺気立って駆け出した。それを見送り健は呟いた
「結婚な…なんか周り独り身ばっかだからピンと来ねえが…」
政界の事情という奴には疎いが、まあ近藤は若くて独身の代議士だからモテるのだろうし、娘を嫁に貰ってくれという話だってあるだろう
「いつまでも独身だと怪しまれる世界みてえだしな」
またどうせお得意のカモフラージュだろうから別に嫉妬しなくても…そこまで考えて健は少し不安?になった
「龍龍嫉妬深いからな…なんかエライ騒ぎおっぱじめるんじゃねえか?」
健は上着を羽織った。心配して、ではもちろんなく楽しそうな騒ぎを見物する為に

仕事帰りの近藤議員に近付く陰があった。
「おい」
「なっ…小龍!ちょ、ちょっと待て」
近藤は何とか言い繕って秘書を先に帰し自宅まで小龍を連れていった。恐ろしい殺気を身に受けながら。
家につき
「小龍、一体ど…」
「近藤、お前どこぞの政治家先生の孫娘と…一緒んなる気か?!」
「…あの話か…」
近藤は乾いた唇をなめた。 「何で知ってるんだ…」
「オレの情報網をなめるなと言ったろ?質問に答えろ!あの話は事実なんだな!」
「ああ…」
答えた近藤を引きずり倒してのし掛かり尚も問う
「事の経緯を話せ!!」
「…うちの党のエライさんがナシ持ちかけたんだ…自分の孫の婿にならねえかってな…なれば党での地位を約束しようって言われたのさ」
「受けたのか?」
「まだ見合いしただけだ」
「受ける気かよ?」
「…こんな美味い話は滅多とねえよ…俺みてえな煙草の闇商人上がりにとっちゃな!うまくいきゃ末は大臣だって夢じゃねえんだ」
「くそ、誰が許すかよ」
「…別にお前と別れようって訳じゃねえ…ただの政略結婚だ。お前が言うなら何時だってお前に抱かれるのを優先させる…そう、今だって」
押し伏せられた状態だが近藤は怯えてはいなかった
「お前が命じるなら今でも何だってするさ。だからいいだろ結婚くらい」
「よくねえよ!!」
小龍の眼は本気だった。
「何故だ?!抱きたい時にお前は俺を抱ける!それ微塵の愛情もない結婚だ、一体何が不満なんだ」
「例え中身がどうだろうと、てめえが形式だけでも他の奴と一緒になんのは怖気がする!結婚なんてしてみやがれ…てめえの正体を世間に触れ回ってやる」
「やめてくれ!!」
ようやく恐怖の色を見せた近藤に安心し、小龍は畳み掛けた
「まだてめえの痴態を録音したテープもある…社会的に完全に抹殺してやる事も出来るんだ…」
近藤は乾いた唇をしきりになめた
「く…だがよ小龍!?お前が気に食わなくても、例え今回の話がポシャっても、俺ァ一応堅気の世界で生きてンだ…そうそう何時迄も独り身でいる訳にもいかねェよ」

さて健様は探偵ゴッコをして遊んでいた
「ふんふん…黒田紘子…名門女子大生。典型的おぜうさまだな…でホントに乳はでけえのかな?写真じゃ分からねえが…お?来た来た…お!?冬服でも分かるくらいでけえ!!きっと脱いだらミサイル級だ!!いいなセンセ…おぉ!?」
電信柱のかげにいる不審者にお気付きでない紘子さまは、若い男に親しげに声をおかけになった
「…彼氏がいるよ…こりゃすげえネタ握っちまった、ふふ」

「龍龍〜!」
緊張感のない声が小龍のただでさえイラだった神経を逆撫でする。さっきあれだけ脅したが、近藤は“破談にする”とは遂に言わなかった
「何の用だ、つまんねえこと言いやがったら張り倒すぞ」
「怖い顔すんなよ、可愛いけど。あのさ、先生脅すネタはいくらでもあるけどよ、結婚相手ユスるネタあんのか?」
「…健健お前何を知ってる?」
「ただじゃ教えらんねえなあ、抱かせてくれたら教えてやんぜ、龍龍♪」
「てめえ…誰が抱かせるかよ」
吐き捨てる様に言う小龍に健は言った
「いいのか?どうせどっちに転んでも破滅だと思ったらあのセンセ、巨乳のお嬢さん取ってお前捨てるかもしんねえぜ?」
「く…誰がンな事させるか…」
「だってよ、よくよく考えりゃあのテープってそんなにすげえもんか?声しか入ってねえし、センセって分かるもんかい?」
「くっ…」
「またあのお嬢さん巨乳だしさ、可愛いじゃん?センセもやっぱグラマーな姉ちゃんの方が…」
ばき、
小龍の拳が床に叩きつけられた
「畜生…オレは別にあいつでなくても…」
「いいのか?」
小龍は肩を震わせた
「…本当に…すげえネタなんだろうな」
「もちろん♪」
「クソ…一遍だけだぞ」
小龍は吐き捨て、バンダナを地面に叩きつけ、苦々しい表情で言った。
「さっさと脱がしゃいい!」
「可愛い顔して怒るなって…じゃあ遠慮なく頂くぜ」
小龍の顔を引き寄せ濃厚な口付けをする。
「ん!…」
長い口付けを終えた時健はいった。
「そんなに…嫌なもんかな?浮気されんのは。龍龍お前がここまでするたぁな」
「嫌に決まってる」
「でも別に別れ切り出された訳じゃねえんだろ?確かに捨てられんなら話は別だがよ」
「あいつがオレ以外の奴に心奪われちまうかもしれねえのが耐えられねえ…あいつは俺のもんだ」
「だからって別に俺に抱かれたり、その嬢ちゃんと子作りしたりしてもいいじゃねえか」
「嫌だ!!愛情なくても家庭なんか作ろうとしやがるのは許せねえ」
「許すも許さねえもそりゃセンセの問題…」
ユウが別れたいと言うのを許さないと言った健だったが、人の事は別だった
「それでも話進めるってんなら…あいつを殺してやる」
その目は完全に本気だった
「まあそんな目くじら立てずに今は俺をみろよ♪今度はもうたまんねーくらい気持よくしてやっから、心配すんな。龍龍は怖がりだからなー」
「違うっ」
「じゃ楽しもうぜ」
服を脱がされかけながら、小龍は近藤を思った。
(あいつが、他の奴のものになるなんざ、許せねえ…。あいつの躰も心も、オレだけのものだ…!!この野蛮人に抱かれてもどうあっても、オレはお前は手放さない!)
「…本当先生にベタ惚れだな…健気ったらねえぜ」
「あわれまれる筋合はない!オレは…あいつの主だ!!くそっ…」
いまいましげに、寝台に拳を打ち付ける小龍に問題児中年はほくそえんだ。
とりあえず上半身を脱がせ、健は小龍を横たえた。眼下に白いしなやかな肉体を眺め笑う
「ようやく龍龍を抱けて嬉しいぜ」
小龍は不快そうな表情で押し黙ったが、健は気にせずその肉体にかぶりついた

対して、まさか自分の為に小龍が健に抱かれようとしているなど思いもしない近藤は二回目の見合いの席にいた。
見合いの席でも小龍の脅し、いや、彼自身のことが気になる。眼の前でにこやかに笑ってる女。別に彼女が不満なわけではない。彼女とともに転がり込んでくる地位を思えばなおさら。
しかし…。
あえて笑顔だけは絶やさない近藤だったが、その心は虚ろだった。
(やっぱり俺はあいつでないと駄目なのか…)
ふと顔を上げるとどこかで見たことのある顔がガラス越しにこちらを見つめていた。
はたと思いあたった正装してはいたが、小龍の部下の一人だった。
では先生も紘子様もお疲れでしょうから少しご休憩を…仲人からそう言われ、近藤は礼儀正しく、だが慌ただしく外に出た

「何の用だ?」
その男は答えた
「近藤センセ…あんたが何をしようとおれ達にゃ何の関係もねえさ。だがな…あんたのせいでうちのお頭が何しようとしてるか知ってるのか」
「何?」
事の纏末を聞いて近藤は蒼白になった。
「小龍が?!う、嘘だろう?!」
「嘘なもんか。あのお頭が、だぜ…あんたのために、体を…!」
「もういい、先方にナシつけてくるから少し待て!場所は知っているな?!」
「無論だ、早くしやがれ」
少し乱暴な…だがまだ言い訳の効く口実で近藤は見合いの席を抜け出した

「小龍!!」
現場に殴り込むと近藤は健のむなぐらをひっつかんだ
「てめえ…どういうこった?」
健は意外な闖入者に驚いたようだったがすぐに皮肉気に笑った
「いつもと立場が逆だなセンセ?…そう俺を責めるなよ。どうせあんた今日は例のお嬢さんと見合いだったんだろ」
「何でてめえが…」
「畜生…やっぱり見合い進める気なんじゃねえか」
恨めしげな目の小龍
「俺の情報力だって中々なんだぜ」
近藤は健を無視して小龍に聞いた
「何でこんな馬鹿な事を…」
「てめえはオレのもんだ…だからあの見合いを破談にしてやろうと思って健から…」
「そのお嬢さんユスるネタを買おうとしてたのさ」
健は言って、珍しく怒った近藤と珍しく弱気な小龍を交互に眺めた…そして珍しく良心(彼にそんなものがあるならばだが)が目覚めた
「…もういいか…センセ?あんたいたぶられる方専門だろ?あんまご主人さまをいじめるなよ。小龍、ネタ教えてやる…実はあのお嬢さんには彼氏が…」
近藤は聞くなり言った
「知ってるよ、男がいるなんてこた。相手も後ろめたいことあった方が、俺としてもまだ気が休まるしな…浮気でもしてくれたら俺としてはむしろ有りがたい、お互い様だからな。形だけ夫婦演じりゃいいんだ」
「うわ打算的〜!さっすが爬虫類系!冷血ぅ♪」
「小龍そうすりゃお前とも気兼なく…」
「馬鹿をいえ!!お前はあくまで俺のもの、俺の命令には絶対服従だ、どうあろうとお前が結婚するこたゆるさねえ!!ちっくしょう…こうなりゃ相手方ユスリかけて二度と縁談なんて考えねえようビビらせてやる!!」
小龍はそう叫ぶと服を身につけ飛ぶように走り出た
「待て…馬鹿野郎…向うは政界の大物だぞ」
「龍龍…また犯り損った…こうなりゃセンセ?続き犯…」
「(議員エルボー)てめえは他に言う事ねえのか!!」
「じゃあ聞くけどよ、センセそこまでして結婚してえのか?」
「…この業界でのしあがるにゃそれが一番早くて確実なんだよ。この話が潰れたとしても他からまた来るさ」
「センセ、モテるんだな」
「まあ独身の代議士だったらなんだってモテるさ」
少し自嘲気味な近藤にムラムラ来た健は
「ひでえ話だな」
といいつつ無理矢理キスした
「何しやがる…」
「俺ならあんたが議員じゃなくたって愛してるぜ」
「だからお前は他に言うこたねえのか!!」
「そして小龍は多分もっとな」
「…」
その場にいるのがもどかしく、近藤は即座に部屋から走り出た。
「小龍!!」
我知らず、柄にもなく叫んでいた。
(そこまで…俺のことを…)

主である小龍と、その玩具にすぎない自分。玩具が主なしでいられないのは自然なこと、しかし主は。小龍の自分への執着の強さは十分知っているし、それを利用して快楽を得ようとすることもある。だがよもや自分の体を投げ打ってまで玩具を手放すまいとするとは…予想だにしなかった。こんなに想われていたなんて…。近藤は走りながらただ小龍を想った。

「小龍…もうやめろよ…そんなに気にくわなきゃ見合いやめるさ…もう結婚するなんて言わねえから」
「本当か?」
「ああ…」
「本当に…永遠にオレだけのモノになるんだな?」
「なるよ…なるから…」
ご主人さまと玩具くんの麗しい愛情?だった
「…いいなあ龍龍もセンセも…てか食いてえな…二人まとめて食わせてくんねえかな」
無理です
「しかしセンセ?この見合い断ったら困った事になンだろ?」
「…仕方ねえよ」
「俺が破談にしてやろっか?」
健は笑った
「健お前何をまたロクでもないこと考えて…だがまあいい。勝算はあるんだろうな」
「俺はドサ健だぜ、まかせろよ!」
「一体どうするつもりなんだ?」
「紘子様をオトす♪」
「…なっ?!」
「確かにな。キズモノにしちまえば向うも縁談どころじゃねえだろ。さっさと行ってはやく縁談潰してこい」
「待て。くれぐれも無茶はするなよ」
「何だ近藤…まだあの女に未練があるのか?」
「いやそうじゃないが…」
「心配すんなって。俺がするんだぜ?安心しとけよ」
「だから心配なんだよ!!」

健は再び紘子様の通学路に張っていた。
「おほっ、来たな!紘子様。巨乳がまぶしーい♪」
やがて待ちきれず、健は紘子様の前に飛び出した。
「…きゃ…」
「おう、びびらせちまったか?悪い悪い♪」
そう言って健は悪戯っぽく笑った。
「おねーさん、何、一人で帰ってんのか?もったいねえ…あんたみたいに可愛い人がよ」
紘子様は少々驚いておいでだったが、目の前の男の茶目っ気のある人懐こい笑顔に、つい気をお許しになり
「ええ…最近は…」
「ん?最近?彼氏とかいたの?」
「ええ…けど…」
「センセとの事あるかからな…控えてんのかもな…」
「何かおっしゃって?」
「いやいや。なあ、ねーさん。よければちょっとばかし…付き合ってくんねぇかな?」
よせばいいのに紘子様はあからさまに怪しい髭に付いて行ってしまった。これだからお嬢様は
「ところで貴方、お名前は」
「俺は健てんだ」
「まあ、では健さまとお呼びしてよろしいかしら。私は紘子と申しますの」
「そうか、じゃあひろこちゃん、茶店でも入らねえか。いい店知ってんだ」
「ええよろしいですわね」

普通にナンパは成功していたが…それを見守る影二つ
「近藤…そんなにあの女が気にかかるのかよ」
「そんなに気にくわないなら来なきゃいいだろ?」
「お前の見張りだ」
「…相手が健だからな。あんま無体な事しやがったらさすがに気の毒だ」
「チッ…仮面夫婦のつもりだって言いやがったクセに」
「あ…茶店へシケ込みやがった…追うぞ」

茶店んなか
「何かあの二人楽しそうに喋ってるぜ?近藤」
「玄人とお嬢様。噛み合う話題なんてあるのか?」
「ん、何か健が女の鞄指さして…なんだ、教科書みたいなのを受け取って見てるぞ?健の奴」
「多分…こんな難しいことやってんのか?俺尋常小学校中退だから全然わかんねえよ、あんた凄いなとか言ってんだ」
「当たってるみたいだな。女は謙遜してるみてえだ。ああして緊張を解くわけか」
「あれが奴のナンパテク!自分の外見も経歴も最大限に利用して…さすがというか何というか」
ところでひろこちゃん、今彼氏いねえって言ってたよな」
紘子様の花の貌が曇る
「ええ…」
「何で?ンな可愛いのに」
「私…お見合い中ですから」
「本題に持ち込みやがったな」
「確かあの女、男がいやがるって言ってたよな」
「まあな…多分こんなもんだろ。男が出来たから、キズモンにならねえうちに嫁に遣ろうと思ったんだろさ」
「で選ばれたのがお前か」
「多分な。条件が良すぎるからこんなモンだとは思ったさ」
「へえ。あんたみたいな美人と見合い出来るなんて幸せだな」
「…相手の方とは二三回お会いしただけなんですが…」
「どんな感じだった?」
「私すごく緊張しておりましたけど…気さくな方で、何かと気を遣って下さる…優しい方です」
「…うわあセンセ猫被ってんだなあ…本性冷血エムのくせにぃ」
「え?何かおっしゃいまして?」
「いやいやこっちの話♪で、ぶっちゃけひろこちゃん、そいつのこたぁ好き?嫌い?どっち」
「…」
「何だ近藤…あんな女に気なんか使ってたのかよ」
不機嫌な小龍
「ガキみたくダダこねるなよ。俺は大人なんだ。そしてあっちはうちの党のオエライさんの孫娘だぜ?」
「…嫌い…ではありません」
「微妙な言い方だな」
「結婚するのが嫌な訳ではないんです」
「でもしたくねえんだろ」
「え…」
驚きなさる紘子様の目を健は覗き込んだ
「違うのかい?」
目を逸らす事が出来ない紘子様
「…それは…」
「好きな奴でもいるのかよ」
健は穏やかな、しかし重々しい口調で尋ねた
しばらくの沈黙の後紘子様は小さくうなずかれた。
「大学の購買部で…本の販売をなさってる方で」
「…両想いなのかよ」
「あの人も私のことを好きだ、とおっしゃってくれていて…将来小説家になって私と二人で暮らすのが夢だって…」
「いいなあ」
「え?」
「いや、そいつの事話してる時のひろこちゃん、めちゃめちゃ可愛いぜ?」
「そ…んな…」

「青臭い夢語りやがる」
小龍は吐き捨てるように呟いた…近藤の紘子を見る目が同情を含んでいたからである
「近藤…お前はどうしたいんだ?まさかあの女に…」
「馬鹿言え。だが…俺と結婚させられなくてもどうせ政略結婚させられんのに、と思ってな」
「良家のご令嬢なんてそんなモンさ。だから金使って温室で育てられてンだろうが」
「だな」
「…分かってます…叶わない恋だって事は。だから…縁談のお誘いにのってお見合いしたんです…」
泣きそうな顔で紘子様は言った
「何だよ両想いなら全然ノープロじゃん。駆け落ちっちゃえばいいじゃんかよ」
「え…」
紘子様にはその選択肢が全く意外なものであらせられたようで、暫く黙っておいでだった。
「でも…私…」
「か、駆け落ち?!あいつ良家のお嬢に何つー…」
「やったとしても生活力全くねえだろう、すぐにへばって実家戻ることなるぜ。第一親が目光らせてる」
「とりあえず…あの馬鹿を止める!!」
「待て近藤!別にあんな女がどこで野タレ死のうがいいじゃねえか。しかもお前の腹はまったく痛まねえしよ」
「そうもいかねえさ。見合い相手が駈け落ちしたなんて…俺の面子はどうなるんだ!?」
やっぱり自己中心的な先生だった。

で健は
(どうもこんな展開になっちまうと、ヤりづれェな…折角食おうとしたのに…折角巨乳なのに)
やっぱり自分の事を考えていたが、それはそれとして(アウトローなんで)目の前のお嬢様の恋を成就させてやるのも楽しいかもな、と考えていた
「なあひろこちゃんの彼氏ってさ、どんな奴なんだ?いっぺん見てみてえな」
「え…あ、もうじき仕事も終わると思います…。お会いになりますか?」
「行く行くぅ!!おーい勘定ここ置いとくぜ。じゃ行くか」
「あ…はい…」
「おい、二人店出るぞ」
「振り回しやがる、行くぜ」

紘子様が購買部に先にお入りになった時
「出て来いよ二人とも♪」
「チッ…気付いてたかケダモノめ」
「たりめーさ。どうだ?俺のナンパ、巧ェだろ」
「馬鹿…駈け落ち唆してどうする。俺の立場も考えろ」
「立場立場って…カタギも大変だな。もう議員なんて辞めちまって玄人に戻りゃいいじゃねえか」
「俺にゃ博才はねェんだよ」
「ちぇっ…そしたら何時でもヤれると思ったのに」
「例えそうなったとしても近藤はオレのだ。オレの船に乗れ、一生オレが面倒見てやる」
「男前のプロポーズだな?どうするセンセ?」
「生憎だがせっかく苦労してなった国会議員だ。辞める気はねェよ(それに小龍の船なんぞに乗った日にゃいつ殺されるか分かったもんじゃねえし)」
「まあ賭けようぜ?」
「何をだ健?」
「ひろこちゃんの彼氏がいい男かどうか」
「オレは悪い方に賭ける。世間知らずの嬢ちゃんくらいしかひっかからねえ三文文士だろ」
「面はいいが生活力のあからさまになさそうな青瓢箪に一票」
「そっか…お、来た来た…」
「隠れるぞ小龍」

紘子が連れて来た男は…
「どうも!」
(!!??)
何だかミシマユキオ似のめちゃめちゃバイタリティと自信に満ち溢れたマッチョ系だった。
「私は紘子との愛と!芸術に身を尽す所存!!そのためなら腹かっさばきます!!」
(何てオチだよ!!)
隠れた茂みの中で二人はズッこけた
「ありゃ…ぜってえホモだぞ」
「確かに才能はありそうだろうが…苦労するだろうな女房は…」
「そっかあ、何だかやたら頼りになりそうな彼氏だな(俺の好みじゃねえけど)」
「ええ、そうでしょう?」
紘子様は嬉しそうに笑われた
「健さん、わたしやっぱり駈け落ちします。そしてこの人と一緒に生きていきます」
「おう、頑張れよひろこちゃん」
で数日後。本当に彼女は駈け落ちし、近藤の元には紘子様の御実家からの大変丁重な謝罪が届いた。

ついでに数ヵ月後、紘子様の彼氏は鮮烈な文壇デビューを果たしたが、まあそれは余談である

                   終

無駄に長いとお思いになった方。まったくその通りですが、元ネタはこれの二倍以上あるんです。だが“政略結婚編”の本題からは外れまくるので大幅に削除。いずれ裏にのっけますが“コスプレ編”と名づけた方がいいような代物です
淦夷の中では近藤は「自分勝手で彼氏にも旦那にも向かない男」なのでこんな事に。まあ彼不運なんで女運だって絶対ないでしょう
改めて読み直してみて…ウチの小龍のガキっぽいトコと、近藤へのラブっぷりに呆れ果てました