マッチ売りの玄人

それはクリスマスの前の晩。
足早に家へと急ぐ人々に混じってマッチを売る玄人(ユウ)がいました
「マッチを…マッチを買ってくれねえか」
しかしライターが普及したこのご時世にマッチを買ってくれる人はいません。
しかし家で待つ妹の芸能界デビューの為にも金を稼がねばなりません。
玄人ならなんで博打で稼がないのかって?それは今賭博防止法が強化されたた為場自体が立たないからです

「おいお前ユウだな?」
「そ、その声は信!」
「シシ、おいこないだ貸した金いつ返してもらえんだ?」
「う…すまん。妹もいるし…食費や光熱費に水道代…色々と」
「てめえの境遇にゃ同情するがこっちも商売だ。今日のトコはとりあえず…」
「あ!」
「この下駄担保に貰ってくぜ!じゃあなシシ…」
遂に履物までなくなり、ユウは凍えた足をさすりました

「寒い…」
ユウはとぼとぼと歩きながら通りすがる家の窓を眺めました。
美味しそうなクリスマスのご馳走が並んでいます
「…腹減ったな…」
寒さと空腹に耐え切れずユウは売り物のマッチに火をつけました

ユウがマッチをすると
「ユウさん…」
「どわあ哲!!な。何て格好してんだ!」
哲は腰に薄い布きれ一枚巻いたきりで、あと首に大きな赤いりぼんをつけていた。
「いや…何かオレご馳走の役らしくて…(照れ)」
「これ刺激的すぎるよ!おい!!」
「ごめん…嫌…だったかい?」
「全然!全く!むしろ嬉し過ぎるが…い、いいのか…?」
「うん…(赤面)ユウさんなら…」
「てっ哲…」
「ユウさん…」
しかし。

シュポッ。
無情にもマッチの火と一緒に哲の姿は消えてしまいました。
ユウはしばし過ぎ去った幻影に思いを馳せていました
「夢…か?寒さのあまり俺は夢を見たのか?だが夢だったとしてもいい夢だ…」
ユウは気を取り直してもう一回マッチを擦りました。

しゅぽ…

目の前に浮かんだのはまだ賭場が盛んだった頃。レートの高い場を荒らしまくっている自分の姿でした
「それロン…これで勝ちだ…」

ぽす。

だが卓の上に積み上がった札束もマッチの火と共にはかなく消えてしまいました
「ああ…」
ユウは大きくため息をつきました…ご馳走哲より俗とはいえ妹の為にも大金が欲しかったのです
それからユウは憑かれたようにマッチをすり続け一時の快楽に酔いましたが、ついに最後のマッチになりました

ユウが最後のマッチをすると
「ユウさん」
「ぼ、房州さん!」
「えらく痩せたなあ…疲れた面して…」
「俺もしかして死にかけてるのか?ま、待ってくれ!まだ俺は…早智子を残して死ねねえし!」
「分かってるよ」
房州は困った様な笑みを浮かべました
「まだお前は死なねえさ」
「本当か?」
「ああ…しかもマッチを売らなきゃなんねえのも今晩限りさ…」
「賭場がまた立つようになるのか?」
「しかもお前の妹も芸能界デビュー出来る…」
「いい事づくめ…なのに房州さん、あんたは何でそんな沈痛そうな顔してんだ?」
房州はもう一度微笑むと
「ま…命さえありゃ…と思って第二の人生頑張りなよユウさん。くれぐれも妹を恨むんじゃねえぞ」
「おいどーゆーこった?房州さん!!房州さん!?」
ユウはそこで意識を失いました

ユウが気付くともう夜が明けていました
急ぎ自宅に帰ると、早智子が外出する準備をしていました。
「兄ちゃん何してたの。心配したんよ」
「悪い。遅くなっちまって…ん、早智子お前これからどこに?」
「兄ちゃん、あたし芸能界デビューすることになった」
「ええ?!お前…一体どうやって?!」
「いいスポンサーが見付かったから」
何故か早智子は兄と目を合わせようとしません
「…じゃ兄ちゃん…体には気をつけるんよ、特に腰にね」
と言うと逃げるように出ていってしまいました

「おい早智…いっちまった…しかしスポンサーって一体…」
ユウが首を捻っていると
「お…いたいた♪」
不精髭のうさんくさいスーツが勝手に入ってきました
「おいてめ何…」
そいつはいきなりユウの唇を塞ぐと窒息せんばかりにキスをしました
「…う…何しやがる!!」
「想像どおりいい味だな。抱くのが楽しみだぜ」
「てめえ何モンだよ!?」
「お前の新しいご主人さま♪さ」
そいつは何やら紙を取出し広げました。そこには
わたくし早智子は兄ユウジの身柄の一切をドサ健に譲渡する事を承認致します。そして兄が釜を掘られようがいかがわしい格好を強要されようが一切抗議しない事をここに誓います
「な?」
「さ…早智子おっ!!」
泣けど叫べど、法的に効力を発揮した書面と、目の前の無精ひげのギラギラした目つきの前では無駄でした

妹に売られたマッチ売りのユウは、それはそれは刺激的な毎日を送りました。
「ユウた〜ん、今度このセパレーツ水着着てみよっか♪」
「体操服ブルマの次はそれかよ?!(泣)」

まあ何事も経験です。
めでたしめでたし。