ラプンツェル
昔昔ある所に夫婦が住んでいました。
妻の方は妊娠期の嗜好の変化によりどうしようもなくラプンツェル(チシャの葉)が食べたくなり魔女の畑のラプンツェルを盗んで食べている所を魔女(碧)に見つかりました。
じー(そのチシャを食べると邪悪な子が生まれちゃうのに)
「ごめんよ…ただどうしても我慢出来なくて」
(じゃあその子が生まれたら私に頂戴。何とか人様に迷惑かけないようにするから)
「…ところであんたどうやって喋ってンだい?」
(思念)
魔女は実は口が効けなかったのですが魔女なので会話の術は心得ていました
しばらくたって生まれた娘はあからさまに邪悪そうでしたが、魔女は黙って引き取りました。
そして月日は流れ、ラプンツェルと名付けられた娘は博打で人を破滅させるのが大好きなひでえ勝負師に育ち上がってしまい、始末に困った魔女は高い塔の上に彼女を閉じ込める事にしました。
登る手段は彼女の髪につかまってよじ登る事のみ。これなら逃亡できず、人様に迷惑をかける事も出来ないでしょう
ラプンツェルは塔に閉じ込められ博打も打てず、かなり荒れていました。
「くそっ、こんなくそつまらねえ毎日やってられっか!…博打で…弱ぇ奴いてこまして泣かして、まきあげてなんぼの人生じゃねーか!」
確にラプンツェルはごっつい邪悪に育ってました。
塔に閉じ込めた魔女の選択は正しかったのです。
しかしそんな彼女にある日転機が訪れました。
隣の国の王子がラプンツェルの噂を聞き訪れてきたのです。
噂というのは恐ろしいもので、隣の国ではラプンツェルは素晴らしく美しくて善良な汚れのない娘が邪悪な魔女に捕まって塔に閉じ込められているという話に歪曲されていました
「俺が助けてやらねば」
王子(ラバ)は思い込んだら一直線の熱すぎる男前でした
王子ラバは国を発ち、やがてラプンツェルのいる塔の下までやってきました。
塔の下からラバはラプンツェルに呼び掛けました。
「ラプンツェルそこにいるのか?」
ラプンツェルはつむじまがりなので答えませんでした。
「俺はお前を救いたくてここまで来た、どうか信じてくれ」
「おい、お前博打は好きか?」
「?…ああ。博打抜きの人生は味けねえ」
それを聞き、身ぐるみかっぱいでやろうと邪悪な念を胸に、ラプンツェルら窓から身を乗り出しました。
そして王子と目があった時…
「あ…」
ラプンツェルの中に今まで感じたことのない甘酸っぱい恋心が芽生えたのです。
ラプンツェルはいそいそとその黒髪を垂らし言いました
「この髪に掴まって登ってこい」
「…そんな事して大丈夫なのか?」
優しく気遣う王子にラプンツェルは益々胸をときめかせました
塔の上まで上がってきた王子はより一層男前に見えました
「こんな所に一人で閉じ込められて…可哀相だな」
「いや…」
王子は真剣な美しい目で言いました
「お前を救ってやりたいんだ」
ラプンツェルは何だかもうクラクラしてよろめいてしまいました。
それを慌てて抱きかかえ
「大丈夫か?可哀想に、ろくに食べ物ももらってないとみえる」
「いや…違…う。ちょ、ちょっと離してもらえるか?」
「ああ、立てるか」
「大丈夫だ…」
ラプンツェルは胸の高鳴りを押さえることが出来ません。
王子の方をみると心配そうにこちらを眺めていました。
「お前…名前はその、何ていうんだ?」
「ラバだ」
その名前をラプンツェルは胸に刻みつけました。
ラバは帰っていきましたが、ラプンツェルの心からは彼の面影と済んだ瞳と優しい声が離れませんでした
(ラプンツェル…どうしたの?)
いつもの様に食料を運んできた魔女に彼女は言いました
「なあ碧…世界って優しい幻想に包まれててンだな…」
(ラプンツェルがおかしい)
「敵でも奴隷でも主人でもない関係ってのもいいなあ…」
うっとりした口調の彼女に魔女は恋を認めました
(一体どこで出会ったのか分からないけど、もしかしたら真人間になるチャンスかもしれないわ)
魔女は彼女の恋を優しく見守る事にしました
二、三日経ってラバは再びやってきました。
魔女は二人の様子を陰でこっそり見ていました。
「…また、来てくれたんだな…」
頬を赤らめながらいうラプンツェルの姿に魔女は驚くと同時にブフーと吹き出したくもなりましたが我慢しました。
「俺はお前を救ってやりたい」
「連れ出してくれるのか?(そしてオレと…)」
「ああ、だが計画は慎重にねらねば。しかしどうしてこんな塔の中になんて閉じ込められたんだ?」
「そ…れは…」
まさか博打で人を破滅させすぎたから…なんて言えないので口籠もるラプンツェルを見てラバ王子は気の毒そうに言いました
「すまない…きっと無理矢理誘拐されて閉じ込められたんだな。恐い事を思い出させた…」
ラバ王子は良い男であり騎士道精神に満ち溢れていましたが、芸術家気質なせいで物事を自分の都合の良いように解釈しすぎる悪癖がありました
(悪い人ではないけど…この二人意外と世間知らずみたいだから野放しにすると心配だわ)
「ああ…うん…」
地が出るとヤバいので無口なラプンツェルを乙女だからと勘違いした王子は彼女の肩に手を置き言いました
「魔女が恐いのか?お前は俺の女だ…心配するな、絶対守ってやる」
「ラバ…」
(どうしよう…私いつのまにやらひどい女にされてる)
そしてしばらくリリカルな雰囲気にどっぷりつかり、名残を惜しんで別れた後。
塔の下に降りて帰途につこうとするラバに近付く一つの影がありました。
「誰だ?」
近付いてきたのは黒ローブに身を包んだ魔女碧です。
(ラバ王子…)
「頭に直接声が…お前は一体?」
(明日町の賭場にいってごらんなさい。あなたは真実を知る必要がある)
「真実?」
碧は立ち去りました。
そして翌日あえて碧はラプンツェルを塔から解放しました。
ラプンツェルはこれ幸いとさっそく町の賭場を荒らしに行きました。
ラバ王子は魔女に言われた通り賭場へと足を向けました。
そこでは
「金がねえだと!?娘売って金つくれ!!」
と叫んでいる人がいました。
長髪です。
どばき、ストレートをオッサンの顔にたたき込みました。
どっかで見た事がある顔です
「…ラバ…」
向うはこちらに気付くと茫然と立ち尽くしました
「…」
王子も茫然と言葉もありませんでした
「ラプンツェル、お前…}
ラプンツェルは蒼白になりラバから目をそむけると、賭場から走り去りました。
「…よくわからんが助かった。ラプンツェルの奴質悪すぎるからな」
「魔女が塔に閉じ込めてくれたお陰で、最近来なくなって安心してたのに…」
他の玄人の言葉にラバは全てを理解してしまいました。
塔では。
「もう…おしまいだ…ちくしょう!!ラバにっ…見られた(泣)」
ラプンツェルは生まれて初めて泣きました。
「ラプンツェルその黒髪を下ろしてくれ」
聞き慣れた声にラプンツェルは窓辺に駆け寄りました
「ラバ…何で来たんだよ」
そこには愛しい王子の姿がありました
「話があるんだ…髪を下ろしてくれ」
ラプンツェルは涙を拭き髪を垂らしました。王子は昇ると彼女に言いました
「俺は…」
「もう何も言うなよ…全部見ただろ?はやく立ち去っちまえ…そして二度と来るな!!それとも嘲りに来たのかよ」
ラバは哀しげに微笑むと言いました
「ああ見た…だが俺は自分の目を信じたくない。お前は純粋でいい女だ。俺はそうお前を見ていた…だから…」
王子は短刀を取り出すと両目に突き刺し言いました
「だから目を捨てる…さらばだラプンツェル…これで俺にはお前の美しい思い出だけが残るんだ」
王子は窓から身を踊らせました
「ラバッ!」
窓から身を乗り出すラプンツェル。
と、地面に叩き付けられようとしていた王子の体が、地上近くで浮き上がりゆっくり着地しました。
そしてラバに近付く影。
碧でした。
碧が手をかざすと王子の目の傷はたちまち癒されていきました。
「ラバッ!」
封印が解けていたのか、ラプンツェルはすんなり外に出ることが出来、すぐさまラバに駆け寄りました。
「ラバ…らばあっ!!」
ラプンツェルは泣きながらラバに抱きつきました
「ラプンツェル…」
ラバは信じられないといった表情で彼女を抱き返した
(王子…あなたの愛はよく分かりました。そしてラプンツェル…博打打ちの業が分かったわね?)
ラプンツェルは黙って頷きました
「あんたは…誰なんだ?」
(ラプンツェルの育ての親の碧です)
「邪悪なんじゃなかったのか?」
(私は邪悪になるさだめを負って生まれてきたこの娘の罪を少しでも軽くするため、この塔に閉じ込め監視してたのよ)
「そう…だったのか」
(でも、ラプンツェルはあなたと出会い愛を知った。あなたが彼女がもう過ちを犯さぬように、ずっと一緒にいてやってくれれば…私も一番嬉しい)
「…ああ、俺はずっとラプンツェルお前が、いつも純粋なお前でいられるよう…側にいよう」
「ラバ…(泣)」
(けどあなた達二人だとどうも心もとないわ。出来れば私も同行したいのだけど)
「もちろんだ」
かくして三人は王子の母国で妻、そして王室専属魔術師兼相談役として幸せに暮らしました。
めでたしめでたし