浦島太郎

昔昔。
浦島太郎という心優しい漁師の若者(ユウ)がおりました。
ある日のこといつものように太郎が浜辺に行くと
「こらあってめーなんぞ一皮向けばただのベタ師じゃねーか!」
「ああん(泣)ごめんなさいぃ」
そこでは近所の玄人にいじめられる亀(キザりん)の姿がありました。
「なあそこらで勘弁してやってくれ」
優しい太郎は玄人と亀の間に割って入りました。

「あ…ユウさん…じゃなくて浦島さん」
玄人(ダンチ)は太郎の姿を見ると言いました
「でもこいつ、つまんねェ技で賭場を荒らしてたんスよ?前、玄人には玄人の掟ってモンがあるってオレの指ブッこ抜こうとしたのは太郎さんじゃないスか」
「結局見逃したろ?…まあ初犯だからビビらせるだけで許してやれよ」
「そう言うんなら…」
ダンチが去って行くと亀は言いました
「ありがとうございます」
「いいって事よ、だが次はねェぜ?」
太郎が立ち去りかけると
「待って下さい。お礼にすげェ高レートで打てる賭場、竜宮城にお連れします」
そう行った亀の目にはなんだか同情と苦痛とが入り交じった色が見えました
ふん?
太郎は何と無くきなくさいものを感じましたが是非にと嘆願する亀の押しに負けついに腰を上げました。
亀は何だか沈痛な顔で太郎をその賭場へ連れていきました。

でかい看板には

雀荘天界〜竜宮城へようこそ〜

といかがわしく書いてありました。
入り口には鯛のかぶりものをしたうさんくさいオッサンが座っていて
「一見さんはお断わりだぜ」
とぶっきらぼうに言いましたが亀が何やらこちらをチラチラ見ながらヒソヒソ話すと
「ああ…今回のぎせ…」
と呟き通してくれました

「おい…何かうさんくさくねえか?」
「高レートの賭場ですから」
太郎は微妙に納得して場に入りました。
中には金を幾らでも絞りだせるカモばかりが夢のようにたくさんおり、彼は札束が積み上がるくらいカッパぎまくりました。

すると何だか竜宮城だからか中国くさい服を着た筋者ぼい人がやって来て言いました
「おい。もっと派手に儲かる博打するか?」
「勿論だ」
太郎はあまりに勝ちすぎていたので気分が高揚していましたからあっさり誘いにのりました

何だか亀と筋ものくさい人の憐れみの視線を受けながら太郎は奥まった一室に連れていかれました。
「ここだ。くれぐれも」
「無理するなよ…」
太郎を置いて二人は去っりました。
不審に思いながらも部屋のドアを太郎が開けると
「お…来たな。待ってたぜ♪」
何やらチャイナをふしだらに着こなす妖しい無精髭野郎が卓台を前にふんぞり帰っていました。
太郎は一応突っ込みを入れました
「誰だお前」
絶世の美人と名高い乙姫さまだ!!
「男だろ!!」
「だって女なんて一言も言った覚えねえもーん」
そいつは無造作に鞄から札束を掴み出しました
「さ。レートは高ェぜ」
確かに聞いたこともないような高レートです。
太郎は手持ちもたくさんあった事だし勝負を受けました
「へえ…」
奴は意味ありげにニヤリと笑い雀牌をかき回しました
雀荘といいこいつといいうさんくさ過ぎる!太郎は思いましたが運が来てるし勝負を始めてしまいました。
「ロン!」
「やるねえ(ニヤり)」
乙姫の意味ありげな笑みと弛いくせにやたら鋭い目が気にはなりましたがしばらく太郎は勝ち続けたのです。

ですが。ただならぬ殺気が部屋を覆いつつありました。
しばらく連続で上がり続けた太郎にそいつは手も足も出ないかに見えました。
そしてなんぼなんでももう逆転は不可能だろうと思われる程札束が積み上がったその時
「さて、離陸開始だ」
そいつは死神のように宣告しました
…それからは…悪夢のような時間が流れました

「…これで文ナシだ」
太郎は札束を叩きつけました
「てめえ…何モンだ?こんな強ェ玄人は初めてだ」
そいつは答えずに立ち去ろうとする太郎に声をかけました
「それじゃ今日の飯代もねえだろ?」
「一日食わねえでも死にゃあしねえよ」
「でも、家じゃ可愛い妹が兄ちゃんの帰りを待ってんだろ?いいのか?」
「う…なんで早智子の事知ってんだよ」
「まあいいじゃねえか。だからまだやろうぜ」
「もうタネはねえよ」
「あるさ…」
乙姫は続けました
体さ…
カラダ?
「そうだ。お前が負けたら今夜一晩お前の体好きにさせてもらう。なに、俺あ巧いからよ…どっちみちおいしい話だと思うがな」
「…はあ?!」
「さあどーすんだお腹をすかせた可愛い妹が待ってるぜ…勝負降りんのか?」
「くっ…!やって…やるさ」
「そうこねえと」
力の差は歴然。
だが妹のため万に一つの勝機にでもすがりつかないと、勝負をふってひもじい思いをさせたとあっては玄人の名折れ。
「行くぜ?」
乙姫はサイを振りました。

長い時間が過ぎて太郎は乙姫の倒された牌を前にうなだれていました。
やはりツキの落ちた玄人に奇跡なぞ微笑む筈もなかったのです
「じゃ、ま一つ…」
嬉しそうな乙姫に太郎は言いました
「く…もう一回だ」
「へえ?まあいいけどな」
そして…延々と負けが込んだ挙げ句太郎の借金は三百年分位まで溜まっていました

「だから言ったのによ」
「でも予測はしてましたよね(泣)」
「まあ乙姫の野郎の暇つぶしになってもらうか…」
「もう何万年もこんな事続けてますが、オレらいつになったらこの業から逃れられるんスか?」
「ここは竜宮…つまり俺達は畜生道に堕ちてんだ。年季があけるまでさ」
亀と筋者は互いに顔を見合わせて深い深いため息をつきました

「…」
「これで三百年分お前は俺のモンだ。ま竜宮にゃ年月はねえから安心しな」
乙姫はふしだらチャイナを脱ぎもっとふしだらな格好になると、淫猥な笑みを浮かべました
「お前…すげえ可愛いぜ」
「ひいっ…」

で当の早智子ちゃんはと言うと
「もう。兄ちゃんどこほっつき歩いてんだが…頼りにならん兄ちゃんだもん」
一人で強く生きていましたとさ


めでたしめでたし