房州さんシャバに戻るの巻(別名、健地獄巡りをするの巻)

ある日神保さんが教会で祈りを捧げていると何だか聞き覚えのある声が聞こえてきた

「…神保…」
「オヌシ…房州か?」
「驚かねえのか?」
「儂は神父じゃからな…地獄の責苦に苛まれて助けを求めにきたのか?」
「いや…責苦は責苦なんだけどよ…俺ァ…今いるのは極楽なんだ」
「何と…それは良かったのう」
「それがよ極楽ってなあよ。またつまんねえトコなんだ」
「罰当たりな…」
「全くだ。好きな博打うっていい弟子にも恵まれて…こっからは業を清める地獄めぐりか、と思いきや…死んでみたら極楽行き。有難いといえば有難ェ話なんだが…ここはよ、日がな一日することもねえし。何とかならんもんかね」
「…お主死んでからも全くかわっとらんな?」
神保は死んで迄、博打うちなかつての強敵(とも)の為に十字を切った
「儂が行ける所じゃあないじゃろが、後学の為にどんな場所か詳しく教えてくれんかの」
「は?俺でも行けるんだからあんたが行けねえ筈はねえと思うが…そうさな、悟りひらいて欲の欠片もねェ仏サマ以外いなくてただひたすら小春日和みてえな日ががな一日延々と続くんだ。で桜だかなんだか知らねえが蒼い空から花びらが無限に降り注いで、お寺さんみてえな音楽…雅楽ってのか?がまた耳障りにならねえ程度に常に鳴ってんだ…またえらく眠くなるんだが極楽じゃあ昼寝も出来なくてよ、腹は減らねえから飯もいらねえし…ともかくなあんにもする事がねえ!!ずうっと何にも起こらねえ!!変化ってモンがねえんだ。博打打にとっちゃ地獄だぜ!?」
「…玄人というのは因果な商売じゃのう、安穏に過ごせんとは…でなんじゃ?今日は一体…」
「ああ、なんでも何年だかに一回は裟婆に戻れるらしくてな、こうやって戻ってみたんだがあんた以外に幽霊と会話できそうな人間知らなくてよ…たく、うまくすりゃ一日だけは別の人間に乗り移れるらしいがそんなイタコみてえなアテはねえし…」
その時神保さんの脳裏にぴんとひらめくものがあった
「房州よ…オヌシの業はよお分かった…その望み叶えてやるぞい」
「は?」
「心配するな、儂はエクソシストの心得もある。幽霊くらいお手のモンじゃわい」
「あんた俺と違って器用だな…で誰に乗り移らせてくれんだい?」
「健じゃ」
「あのヤンチャくれにか?」
「いかにも。今日一日だけでも主があれの体を支配して、周りに迷惑かけずに過ごしてくれんか。とりあえず健を呼ぶから待っとれ」
「ああ。坊ややユウさんは元気かな…」
房州さんに否応はある筈もなく又、当人の意志を確認せずにンな事していいのか?とは育ての親も思わなかった…相手健だし。

つー訳で
「うすオッサン。何か用か?」
「うむ。ちょいとそこに横になれ」
神保は祭壇を指差した
「?」
健は不思議そうな顔をしたが大人しく横になった
「じっとしてるのじゃぞ」
「何すんだ?」
神保さんは答えず呪文を唱えはじめた
エロイムエッサイムエロイムエッサイム…地獄の伯爵アスモデウスよ、地獄の大公ベヒモスよ、わが供物を受け取りたまえ
「おいおい神保それって悪魔召喚じゃ…」
房州さんは突っ込んだが悪魔の手の者の方が一瞬早かった
「良かろうアダムの息子よ…汝の望みを叶えて遣わそう」
何とも言えない音と煙の後、神保は健の肉体を指差した
「これでまったくモヌケの殻じゃ。楽しんでこい房州」
「あの…今健の魂を地獄に引き渡さなかったかい?」
「ああ…大丈夫。この程度ならあいつは平気じゃ。一日くらいしたら迎えにいくからの」

ややあって…健の目が開いた。
「どうじゃ具合は?」
「何か…妙な感じだな…よっと。ほう、極楽じゃふわふわ浮いてるみてえな感覚しかなかったが…いいねえ。地な足が付いてる感じだ」
「まあ今日一日楽しんでくるがよかろう」
「…じゃあ久しぶりに打ってくらあ、あんがとよ神保」
「ああ…しかし現世に戻ってすぐに博打とは…業が深いの」 「まあな。で、健のフリしなきゃなんねえから一応あいつの事教えてくんねえか」
とりあえず神保さんに必要最低限の健の知識は教えてもらったものの
妙な事をしでかしても構わんがあまりマトモな反応をすると疑われるぞい
という忠告が微妙に気になる房州さん
「まあ…一日賭場にいりゃあ平気だろ」

彼はぶらりと賭場に入った
久々に打つ博打の気持ち良さは禁煙をやめた一本目の煙草の如しだった…煙草も久々だが
「やっぱ俺は博打しかねえんだなぁ」
しみじみしながら勝ちまくっていると
「よお健?こんなトコで打ってるたあ珍しいな」
「おおユウさん久しぶりだな」
「…は?昨日の晩会ったろ?それになんだよユウさんて…」
「ああ…そうだった…酒が残ってンだよ…だからぼおっとしちまって」
「強い癖によ」
「それよりどうだい調子は?」
「…は?何かお前変だぞ?いつもなら飛び付いてきたり…からんできたりするくせに。頭でも打ったか?」
(よっぽどエキセントリックなんだな…こいつの行動パターンは)
そう思いつつ房州は煙草を吹かした。
「まあ…人間色んな時があるさ」
自分に穏やかな笑みを向ける房州にユウはたじろいだ。
「何だ…きょ、今日のお前やたら渋いな…新しい口説きのフォームか?!」
「ハッハッ…まさか。マスター茶頼むよ」
「な、何かいつものガキくささがねえ…どうしよう…普通に格好いい…」
「…えっと…ああまあ…じゃあしっかり稼げよ」
ユウさんは幽霊にでも会ったかのように気味悪げに去っていった

「…行っちまったな…もっとゆっくり話したかったんだが」
だが彼は鋭い洞察力で理解した。普段の健はかなりおかしくてガキ臭いであろう事を
「あいつもいい加減いい年だろうになあ(しみじみ)」
そして神保お父さんに深く同情した
「そうそう…坊やはどうしてっかなあ?ママにも会いてえが健とは昔出来てたらしいからな…行く訳にもいかねーし」


「ああっ!ドサ健!」
「お…お前確か坊やとコンビ組んでたリーゼント…」
「何しにきやがった!」
「いや、久しぶりに坊やと打ちてえんだがな。どこにいるか分かるか?」
「はん!知ってても教えるか!また体を賭けろだのロクでもねーこと…」
「いわねえよ。賭けるなあ金だけだ、ほら」
バサバサ…。
「うわすげっ…幾らあんだ…」
「なあ頼むから案内してくんねえか?坊やんとこに。積もる話もあんだ」
「…」
色々気になったダンチだったが、一応哲のところへ案内する事にした。

そして一方
育ての親によって地獄に叩き落された健だったが別にあんまり気にしていなかった
「罪ある魂よ…永遠の地獄の苦しみを得るが良い…」
「(まったく聞かないで辺りを見回し)おおこれがモノホンの地獄かよ…美人やら美味そうな兄ちゃんやらがたっぷりいるぜ(じゅるり)やっぱ罪つくりなんだなこの手の存在は…しかも強そうな博打打ちがごろごろしてやがる…おーい博打打たねえかい?」
「ちょ…少しはビビれよ」
「てか皆して裸だ!!やっほう♪お!?何か龍龍んとこでみたよーな責め具があるう、わーい♪おいおい地獄ってなあパラダイスだなあ。ここの仕事止められねーだろ?ええ?♪」
「こいつものすげえ質悪い…何とかせねば…おいこっちに来るのだ」
「なになに?♪」
「お前の…実の親に会わせてやる」

その言葉に健はビビ…らなかった
「いいぜ」
「…おいお前。普通の人間ならも少し驚いたり、会いたくないと突っぱねたり、そーゆーリアクションがあるもんだぞ」
「何で驚く必要があンだ?俺がいる以上生みの親くれえいるだろ」
「じゃその親が地獄にいる事にゃ不満はないのか?」
「は?生まれたばっかのガキを雪ン中にほおり捨てるよな親が天国行きなわきゃねえだろ」
「…お前みたいな奴は珍しいな。家族愛ってのはないのか」
「俺ァ玄人だぜ?」
「…ここだ」

一方房州さんは
「絶対!哲さんにおかしな事すんじゃねえぞ?おい」
「分かってるよ…坊やは元気か?風邪引いたりしてねえか?」
「…何でてめえがんな故郷のオフクロさんみてーなこと…ん、着いたぜ。哲さ〜ん!こいつが打ちたいってまた駄々を…」
「ドサ健…ん?」
「やあ久しぶりだな坊や…大きくなったなあ…(しみじみ)」
「…ドサ健…だよな?何でだ…すごく懐かしい…?」
「てて哲さんどうしたんすか?!」
「いや…何だか分からないが…一瞬房州さんに会ったような感じがしたんだ…何でだろうな」
「ふ…バーカ、俺が房州に見えるってのかよ」
「…ンな訳ねえのにな」
「さ、打とうぜ…」
哲の目がサイを振る健の手に注がれた
「…あんた…やっぱり健じゃねえ!!」
「どどどうしたんスか哲さあん?明らかにこいつはドサ健…」
「違う!!その賽の振り方!!」
「ん、しまったな…長年の癖が…」
「房州さん!!」
叫んで哲は房州に抱きついた。
「てて哲さん何を?!」
「こらこら坊や…俺は健だっつってるだろう?」
「その呼び方…やっぱりそうだ!見た目は健だけど中身は房州さんだ…!オレの勘がそう言ってる!!房州さぁん…オレ…オレ…ずっと会いたかったよ…」
泣きながら抱きつく哲と少し困惑しながら頭を軽く叩く房州
「おいおいこんな賭場の真ん中で」
「だって…だって…」
子供の様に泣きじゃくる哲。
そしてダンチは
「…哲さんが大変だ」
といずこともなく駈け去った

「俺、房州さんがいなくなってから、すげえ寂しくて…もう絶対会えないと思ったらなおさら…!」
「バーカ、いい年してそんな泣くんじゃねえよ。みっともねえぞ?」
そう言いつつも温かい目で哲に微笑みかける房州。
「俺房州さんのサイコロずっともってんだ…お守り代わりに」
「ボロイ賽をか?そんなもん持たなくても、お前にゃでっけえ天運がついてるじゃねえか」
「駄目だよ…玄人としての力も心構えも全部房州さんから教わったんだ。あの賽持ってると、房州さんといつも一緒にいれる気がして…」
「全くいつまでたっても坊やだなあ…」
賭場のド真ん中でジュクとノガミの最強玄人同士がほのぼの会話している姿は嫌でも人目をひいた。
そして

「ここっスよユウさん…」
「哲…」
「あユウさん…紹介するよ房…」
泣きながら健にすがりつく哲の姿はユウの怒りと嫉妬を刺激しまくった…らしい
「てめえ健!!よくも哲に…」
そして彼は拳を振り上げた

バキイッ

「えっ…」
驚く程綺麗に右ストレートが顔面に入り、ユウさんは少し戸惑った。
「よけられたろ?おい…」
「ユウさんひでえよ!房州さんに!!」
「…へ?」
「ハッハッ…ユウさん、ちゃんと坊やをよからね奴らから守ってくれてるんだな…礼を言うよ」
「ドサ健…?」
「違う!ユウさん、この目…雰囲気…分かるだろ?見た目は健だけど健じゃない!」
「た、確に今日の健は何か変だな…」
「だからこれは健じゃねえ!!何故かは分からないけど房州さんなんだ」
「…房州さん…」
ユウはようやく思い至ったように口にした
「…本物…なのか?」
「やれやれ…俺は健だってのに…人の言う事信用しねえ若ェ奴らだ」
そう言って頭を掻く仕草も在りし日の彼そのままだった

「本当なのかよ…房州さん…また会えるたぁ(泣)」
「やれやれ…仕方ない奴らだな。んなこたぁありえねえだろうに…まあいいか、お前らがそう思うのは自由だかんな。ときにここんとこ皆どうだった?変わりなかったか?」
「ああ!相変わらず打ち続けてる!!」
房州さんあんたがいない間に哲が総攻めに…そう言いかけてさすがにやばいな、とユウは口をつぐんだ。
「ママさんも元気かい?いやあ会ってみてえのは山々なんだが、さすがにこの体じゃあな…」
「ママならすぐ分かってくれるさ、行こうよ房州さん」
哲に引きずられる様にして房州はバーへと向った
「オイオイ…マジで健があのじいさんなのかよ」
半信半疑ながらもダンチもその後を追った

で地獄。

獄卒が案内した先にいたのは
「誰だこいつは…」
見るからに人間の屑くさい汚い若い男だった
「お前の父親だ」
「はあ?こんなしょぼい汚えゴラムみてーなんが親父?おい」
「…」
男は虚ろな目で見上げた。
「お前俺の親父?」
こくり、
と生気なく男はうなづいた。
「ふ〜ん、失格!」
「おいおい何がだよ」
「こいつ俺の親父失格。しょぼすぎっから。なあオフクロは?」
「こんな奴しらん…つ、付いてこい」
行った先にはやはり汚い中年とも老年ともつかないみすぼらしい女がいた…ただ顔の端々から若い頃は意外と美人だったのではないかとも感じられた
「あんたが俺のオフクロか」
女は虚ろな目で頷いた
「雪ン中に赤ん坊の俺を捨てたのもあんたか」
女はまた頷いて言った
「男と逃げる途中で…邪魔になったんだ」
「へえ…」

健は幼い頃から神保に聞かされていた。
お前は大みそかの晩に道路の脇の雪の中に捨てられていたのだと。
神のお導きで…と神父は言ったが、捨てられて暫くたっていた筈なのに、まだ泣く元気があったので見つけたのだと

「…俺の親父もオフクロも…まあろくでなしだったんだな。だから俺もそーなったのか」
「…」
「俺を勝手作って勝手に捨てたのはおめえたちだ。だから俺も勝手に決めるぜ」
「?」
「俺の親父は神保のおっさんだ。でもってオフクロは忌田とユウたん。てめえらは失格だよ」
健は破顔一笑するとくるりと背を向けた
「まだ俺に何かあるか」
獄卒に言うと獄卒は呆れて答えた
「いや…もう好きにしろ」
「よし、じゃあ好きにさせてもらうぜ…まずは地獄に堕ちた伝説のすげえ別品たちとやりまくって…で伝説のすげえ博打打ちと打ちまくろうっと…」
心底楽しそうな健に獄卒はため息をついて言った
「生身の人間の癖に…信じられん強さだ…」

一方房州さんたち。
「ママ…何でそんなにすんなり納得できんだ?」
「フ…そういう態度取るのが正気の健本人だっていう方が、理解に苦しむわ…」
「よっぽど人格破綻してんだなあ…こいつあ(しみじみ)」
「なあ房州さん!聞いてくれよ。俺さ…男になったんだ!」
「(ブホッ)坊や、ここじゃその手の話は…」
「私は構わないわよ…フ…」
「…俺な今房州さんが入ってるドサ健に…」
「哲う!(泣)房州さんを悲しませるようなこと言うな〜?!(泣)」
「?だって房州さんもオレがずっと『坊や』のままだったら心配だろ?」
「いやま…確かにそうなんだがよ…」
「だから健で筆おろししたんだ!!それだけじゃねえよ、コスプレだって3Pだって大人のオモチャだって…どうしたんだい房州さん?」
「ユウさん…俺の坊やをどこやっちまったんだい?」
「俺が聞きてえよ(泣)てかよ、房州さん…哲がこうなったのも元はといやあ…健の奴のせい…」
「こいつ、か…」
「あそうだ。健とこれだけは気が合うんだけどさ、ユウさんて可愛いよな?(照れ)」
「…こんな感じなんだ。何とかしてくれ房州さん!!(泣)」
「玄人ってなあ本当業が深えなあ…(泣)もう俺の時代は終わったよ…理解不能だ」
「…でさでさ房州さん」
会えてよかったような、よくなかったような複雑な気持ちを抱えながらも房州の夜は更けていった。

でたくましく地獄で生きて?いる健はというと
「うら丁だ」
クレオパトラと楊貴妃をはべらせながら博打を打っていたという
「まあお強い…勝負強さはマイスイーツ、カエサルにも勝るわ」
ないすばでーのエジプトの魔女の甘ーいささやきの言葉や
「お祝いに一曲…ウチの陛下には内緒よ」
傾国の美女の舞。
ついでに地獄には名高い博打打ちが多いので、ヒリつくような勝負にも欠かさない
「まさに天国だな♪」
とどうしようもなく人生をエンジョイしていたという

その頃
「そろそろ時間じゃな。房州今お主に念話で語りかけておる…戻ってくるがよいぞ」
「…神保の奴どんどん人間離れしてくるな。坊や、ユウさん…ママ。俺あそろそろ行かなきゃなんねえ」
「え…もう?」
寂し気な哲の視線に笑顔で応えながら房州は言った。
「坊や…玄人は人間の屑だが、それでも踏み外しちゃなんねえ道はある。ユウさん…ママ、しっかり坊やを見ててやってくれ」
「ええ」
「ああ出来る限り…は(泣)」
「じゃあな、達者でな…」
「房州さん!もう、もう会えないのかい?!(泣)…やだよ…」
「坊や…だがよ俺は健の体を借りてンだ、そうもいかねえ…」
「健なんかいいじゃねえか」
涙ながらに訴える哲
「だって…あいつがいるせいでユウさんはあいつにメロメロだし」
「哲ぅ(泣)それを言っちゃ…」
「俺はあいつなんかいなけりゃよっぽど…」
「坊や…おめ、逃げンのかい?」
「え?」
「博打でも…恋?でも奴に勝てねえからって自分で勝とうとしねえのは逃げだ。俺ァそんな博打教えた覚えはねえぞ」
「房州さん…」
「てめえで勝て。俺はもう過去の人間だ」
「…わかった…オレ逃げない…」
微妙に論点をすり替えての説得術にユウは円熟した玄人業の神髄をみるのだった
「じゃあな。まあ盆に気配くらい感じたら俺がいるって思ってくれよ」
「房州さん!俺!絶対健の奴に勝って!最強の玄人になってみせるから…」
「ああ…全力でいけ。そして勝て。おめえなら出来るさ…」
「房州さんっ!!(泣)」
そして房州は帰っていった。

地獄で好き放題楽しんでいた健だったが
「おい、保護者が迎えに来たぞ」
「は?」
振り向くと神保がいた
「帰るぞい」
「オッサン、俺まだここいるから帰らない」
「早く帰れ。ちょっとお、次から気を付けて下さいよ、ここは迷子センターじゃねえんすから」
「すまんのう、ほれ行くぞ」
「やだー俺ここのが楽しいー」
神保さんと獄卒がさんざなだめたりすかしたりして何とか現世に帰る事に賛同させた

「あーあ…まあいいやどうせまた来るトコだしよ」
「生き身で地獄に落とされたら少しは懲りると思うたが…オヌシの業はよっぽど深いんじゃのう(しみじみ)」
「そういやオッサン、俺こっちで生みの親って奴に会ったぜ。しかもさすが俺の親、人間の屑だった(にやにや)」
「実の親の事をそんな風に言うもんじゃないわい」
「だっていっつもオッサンだって俺の事馬鹿だ馬鹿だって言ってるじゃねえか」
「事実馬鹿じゃろ」
「じゃ何で拾ったんだ?」
「それも神のお導きじゃわい」
「後悔してるか?」
「お前は神が授けて下さった儂の息子じゃ。後悔なぞするものか」
神保の返答に健はやはりニヤッと笑うと
「やっぱオッサンが親父でよかったな」
と呟いた

何だか楽し気に神保さんと帰ってきた健を、房州が待っていた。
「よお、やんちゃくれ…」
「お?あんた房州じゃねえか。」
「ああ…今日一日借りたぜ、お前の体」
「あ?俺ん体?ふーん…どうだ、エロくてよかったろ♪」
「あいにくそれが実感できるような体験してねえよ(したくねえし)」
「何だ。すげえいい経験出来たのに」
ともかく健は元の体に戻り、房州さんは
「またこういう時ゃ神保おめえさん所来るぜ」
そう言い極楽へと帰っていった。

そしてその晩
「ユウたん♪」
「ぼ…いや、この餓鬼くささは…健だな…」
「へっへっへっ、あのさあ…」
「何だよ」
「これからユウたんの事オフクロって呼んでいいよな?」
「は?ば…馬鹿かてめえ。俺は男だぜ?」
「だって俺はユウたんがオフクロがいいんだもーん。優しくてあったかくて飯も美味いしよ(抱きつき)」
「またそーゆー訳分かんねえ事言う」
「つー訳でオフクロちゅーっ!!ふう、地獄もいいがやっぱユウたんのキスはいいな…さエッチしようぜ」
「ばか、母親と寝る息子が何処にいるんだ」
「お?ならやっぱオフクロになってくれんだな」
「違うっ(恥)」
「ユウた〜ん♪ああ温ったけえなあ♪」
「…(赤面)おいついでに言うと俺お前より年下だぞ…」
「愛があったらノープロだ」
「…ついてけねーよ、お前には」
「産みのオフクロは俺捨てたけどよ、ユウたんは捨てねえよな?な?」
「…ばか…。捨てねえよ…」
「だったら、いーんだ♪」
「…ヤンチャ中年が…」
優しいお母さん?と結局一晩しっぽりした健は翌日天界でも
「忌田ー!!これから母ちゃんって呼んでいいよな?」
「(ぶほっ)な…何でだ!!」
同じ事をしたそうです


めずらしくいい話になったリレー小説。多分房州さんがいたからだと思われます。
博打打ちには極楽みたいななんの変化もない安全で安穏な場所は耐えられないんだろうな
ちなみになんで房州さんが極楽にいるかっていうと…懲罰の一種だと思います