黒龍さんシャバに戻るの巻(別名、健極楽巡りをするの巻)
房州さんが今日も極楽で暇を持て余しながら散歩していると、極楽に似付かわしくない髭面のオッサンに出くわした。
どうみてもカタギでないので、そういう相手に餓えていた房州さんはさっそく話し掛けてみた
「おう兄さん…ショボくれた顔してどうしたい?」
彼は自分は元満州の馬賊の頭だったと名乗り、彼も何故だか知らないが極楽に来てしまったと語った
馬賊稼業の彼には、極楽は性に合わないことこの上ない、と前置きした上で、
「でも何よりツラいのは…ウチの息子の事さ…」
何でも彼の可愛い息子は、元から割と邪悪で馬賊として先行き楽しみだったのだが、親を殺されて血も涙もなくしてしまい、しかもS衝動かなんかにも目覚めてしまったそうな。
しかも最近は女装にも目覚めてしまい、どこで捕まえたのか丸眼鏡の政治家相手にあらん限りの背徳を尽くしていると、彼は声を詰らせながら語った
「…確かに数限りない悪事は犯したけどよ…俺は孫の顔くらい見たかったのに…」
髭面のオッサンは哀しそうに呟いた
房州さんは自分トコの子供(実と義理)の体たらくを思い浮べ
「業って奴さ、お互いにな…」
と慰めた。
それでも一心不乱に下界を眺め
「ああ小龍…俺は…俺はそんな子に育てた覚えはねえよ」
呟く男
「なあ、あんた…」
「黒龍さ。あんたは?見たトコやっぱりカタギじゃなさそうだが」
「ああ、俺ア剣崎…いやいや、本名より、賭場での通り名の方が耳に馴染んでるな。房州って呼んでくれよ。チンケなばくち打ちさ」
「玄人か。」
「まあ、それはともかく…黒龍さんよ…あんま思いつめっと体に毒だぜ」
死人の癖に死人の体を心配する房州さん
「…ああ、一言でいい…あいつに言ってやりてえのに…」
「一言…」
房州は呟き
「まあ待ちな」
と答えて消えた
教会
「ん?その気配は房州か。達者にしとったか?」
「ああ、まあな…ところでよ神保。ちょいと俺の頼みを聞いちゃくれねえか」
「頼みによるがの」
「何、人助けさ。極楽で知り合った奴がさ。息子に一言かけてやりてえってんだよ…何とかならねえか」
「ほう…そりゃ気の毒じゃ。待て、早速健を呼ぼう…」
さっそく呼び出された健
「なんだオッサン?はっ…さては俺に欲情したのかよ」
「訳わからん事言わんとほれそこに横にならんかい」
「祭壇の上でえっちか?さすがに初めてだな♪いいぜ、オッサンなら」
「…どんだけ業が深いのやら…これは少し御灸を据えんとな」
「オッサン早くぅ♪」
「えろいむえっさいむえろいむえっさいむ…(ぶつぶつ)来迎なされい!!大日如来よ!!」
どぐわらああん(という音)
そして紫の雲と妙なる音楽
「何用ですか?」
「オッサン、このパンチパーマどこの組の奴だ?」
「(無視して)すまんのう。うちの子があまりに業が深くて…一日ばかり預かって貰えんかの」
「承知しました。浄土の生活で身も心も清まりましょう…さあいらっしゃい」
「やだ。あんた萌ねーし…ちょ、何しやがる」
駄々をこねる健を如来様は無理矢理連れていった
「さあ、空いたぞい房州」
「神保…おめえ神父の割に顔広すぎだなあ」
何かどんどん芸?の幅が広くなってく神保に半ば呆れながら、房州は黒龍を誘ってきた。
「この男はなんだ?」
祭壇に横たわる健様の体を不審気に見やる黒龍に
「この体で、今日一日…あんたは息子さんと話できんだ」
と、経験者?の房州は説明してやった
黒龍さんはおずおずと健の体に入りこんだ
「…なんだか妙な感じだな」
「なあにすぐ慣れるさ」
「健は丈夫な子じゃからかなり手ひどく扱っても平気じゃ。一日存分に息子さんと語り合ってきなされ」
「ああすまねえ」
そして出ていく黒龍を尻目に房州と神保は茶飲み話を始めるのだった
で
「確かこの港に…」
黒龍は小龍の密輸船を捜し当てた
と、黒龍さんの耳に悲痛な声が飛込んできた。
「た、たのんますお頭!後生だ!」
「ふざけるな、もう少しでメリケン野郎にかぎつけられる所だったんだ、命で購え」
「ひいいい!!」
久々に肉眼でみる息子の勇姿に黒龍は思わず微笑み、黒龍は中に入っていった
「小龍…」
「てめ健!?今とりこみ…」
言い掛けて小龍は違和感を感じ言葉を止めた。
目の前にいる人物は確かに健の筈だが、何かが全く違っていた
「好久不見了…小龍…」
「人尓…人尓…人尓是什…」
おまえは誰だ
…そう言い掛けた小龍に、黒龍は万感の懐かしさを込めて答えた
「我是黒龍、人尓的大公!!」
「…大公!!」
一瞬の不思議そうな表情の後、黒龍は最愛の息子の満面の笑顔を確認した
健(の体)に抱きつく小龍を、手下たちは不審の目で眺める。
それもお構いなしに、小龍は黒龍の胸に顔をうずめた。
「(以下日本語訳)親父…どうして…」
「あの世での知り合いがな、手配してくれた。…しかし相変わらずだなお前は、小龍」
「会いたかったんだ…」
「お頭がオカシイ…」
抱き合う二人にどうつっこんでいいのか、手下たちは分からなかった。
「親父…オレ…」
「だが立派にやってるな」
黒龍の言葉にちょっと誇らしげな笑顔を浮かべて
「たりめーだ。オレは親父の息子だぜ」
「そうか…」
いとおしげに小龍の髪を撫でる黒龍。そこに髭の副頭が入ってきた
「あの副頭…」
言われずとも驚く彼に黒龍は声をかけた
「よお達者かい」
「…おやっさん…まさか」
「いつも小龍の傍で、よくやってくれてるみてえだな」
「…この語り口、雰囲気…本当におやっさん?」
目頭が熱くなりうつむく副頭を温かい目で見守る黒龍
「親父、色々話してえ事が…」
「わしもだ、小龍」
「ん…そうだ!親父とにかく!真っ先に会って欲しい奴がいるんだ!!」
副頭の顔が曇った。
「お頭、まさかあの先生に?」
「当然だ!!」
やめといた方が…言いかける副頭だが、小龍は部下に命令して“例の人”を呼びに行かせていた
「何のようだ?いきなり…」
呼び出されてやってきた近藤。
小龍は嬉しそうに黒龍に彼を紹介しかけたが
じゃき
黒龍はいきなり銃を抜いた
「あんたがいると息子は…駄目になっちまう。悪いが、消えてもらう」
「け…ん?」
「親父!何を!」
「黙れ小龍!」
一喝され小龍は口をつぐんだ。
そして恐る恐る黒龍の顔をのぞきこんだ。
副頭だけは両者の意図を漠然と理解していた。
「おやっさん…お頭とこの先生との関係は御存知で?お気持ちは分かりやすが、しかし…」
「いったいどういう…健?」
「この男の体は借りているだけだ。わしは黒龍…小龍の父親だ…」
「…は?」
そんな馬鹿なお前は健だろ?てか小龍の親父はとうに死んだ筈…等など言いたい事はたくさんあったが、頭に突き付けられた銃を何とかする方が先だった
「まさか…俺を殺す気かよ…」
「それが一番確実だ」
声は健のものだが、自分を見るその目には冷たい憎悪しかなかった
「おやっさん…お気持ちはわかりやすが」
「なら黙れ」
「しかしお頭の気持ちを考えて…」
「親として俺がどんな気持ちか分かるだろう!?」
近藤は困惑したまま黙る小龍を見た。その表情は今まで見たことがない顔だった
「親父!!」
小龍は複雑な、だが真剣な表情で言った。
「親父…近藤を殺るつもりなら、俺を殺す覚悟もきめてくれ」
「小龍?!」
「お頭…!」
「オレとこいつは、一蓮託生だ」
「正気か?」
「頭!!」
「小龍…」
近藤は小龍の台詞に深いため息をついた
「俺はお前にとってただの玩具だろう?ンな親泣かせな台詞吐くなよ」
「勝手な事抜かすな!!オレがこの手で殺す以外に死なせてたまるかよ…」
「小龍…」
撫然とした表情で、黒龍は銃を下げた。
そして
「少し風にあたってくる…」
そう言い、一人波止場に向かうのを副頭が追いかけた。
「親父…」
小龍はその背を見送るしかなかった。
小龍の表情の余りの可憐さにとまどう近藤
「…小龍」
「健の姿はしてるが、あれは親父なんだ…」
「分かってるよ」
「オレは…オレは親父を尊敬してる。親父の言う事ならなんだって聞けるよ…なのに…」
「小龍…」
近藤は小龍の肩に手をかけた
前を行く黒龍に副頭は声をかけた。
「おやっさん…待ってくだせえ!」
振り向かず、だが立ち止まる黒龍。
「……」
「おやっさん、お頭はあの先生に夢中で…あっしらもそれをはがゆく思った時もありやした。けど…」
「あいつが、自分の命をかけるとはな…」
「…おやっさん」
「小龍は思った以上に変わったな…なあお前。俺は変わったか?」
「いえ全然」
「当たり前だ。俺は死んでる…死んだ人間は変われねえんだ、どうあがいてもな」
「おやっさん…」
「だが小龍は生きてる。死んだ俺が、あいつに四の五の言えた義理じゃねェ…のかもな」
「…相変わらずでっけえ方ですなおやっさんは」
「もういい。認めは出来ねえが殺しはしねえよ。あいつの好きにさせるさ」
一方
「うわあ〜何だよここ…」
極楽に着いた健様。
「今日一日心穏やかに過ごされるがよいでしょう」
穏やかにおっしゃると、大日如来は紫雲をたなびかせ、空の彼方に去っていった。
「何だよー何もなくてぼうっと霞がかってて…オレこういう生温い雰囲気やなんだよなあ…」
辺りを見回すが、健の興味をそそるようなものは何一つない。
もちろん…
「うまそーな奴もいねえ…カタギばっかだし。うー…やだなあここ(泣)」
健は辺りを探索してみたが、妙なる音楽と芳ばしい香に咲き乱れる花…たまに会うのは修行中の菩薩様や如来ばかり。彼らは悟りの境地にいるので全く萌えとかそういう感覚とは無縁で、しかもいたずらしても穏やかに微笑むばかり…さっぱり面白くなかった。
更に極楽では睡眠をとる必要もなく(つまり眠れない)食事をとる必要もなく(腹も減らないから食うものもない)なんにもしなくて良いらしかった
「博打してー!!びずぃんなねーちゃんや萌えるにーちゃんとしっぽりしてー!!飯くいてーよお!!」
泣けど叫べど…極楽はどうしようもなく平穏だった
健は涙ぐんで、現世の愛しいハレムのみんなを思いだしつつつぶやいた。
「おっさーん…もう帰りてえよう(泣)俺萎えて死んじまうよお…」
花畑に大の字に寝転びながら、
地獄の方がよっぽどよかった、と思うことしきりな健だった。
さて。
「親父…」
無言で戻ってきた黒龍を、小龍と近藤はじっと見守りその言葉を待った。
「小龍…」
黒龍は大事な大事な息子の顔を目に焼き付けんばかりに見守るとようやく口を開いた
「自分の思うように生きろ」
「親父」
小龍の顔がぱっと輝いた
「認めてくれんだな」
「いや。だが口出しはしねえよ。お前の代で俺の血が途切れンのも業だろ」
「なんだそれを心配してたのか」
小龍は笑った
「孫はつくるよ」
ええっ!?
副頭と近藤が同時に叫んだ
「オレは女には興味ないが…この血を絶やすなんてこたあ出来ない。こないだ…趣味の悪い金持ちの毛唐どもから、面白え事を聞いたんだ。何でもヤらずにガキを作れる体外受精って技術がメリケンじゃ開発途中なんだとよ…技術者脅せば実現もそう遠い未来の話じゃなくなるだろう。親父…親父の血は何としても伝えてみせる…!」
そりゃないだろ…
という表情の副頭と代議士を尻目に自信満々な小龍。
黒龍は何故か微笑んで小龍の頭を撫でた
「お前は昔からそうだった…どんな無茶しても自分のやりたい事は曲げなかったな…」
「(ひそ)昔からあんな性格なのか?」
「…ああまあ…あんな性格ですとも」
そして黒龍は手を離した
「元気でな小龍…」
で教会
「そろそろ健を迎えに行くかの」
「おお長居しちまったな」
「なぁに良いのじゃよ」
神保は立ち上がり、何やら唱えたかと思うと姿を消した
「あいつ…屑拾いでも玄人でもなく、あれで金儲けりゃ億万長者じゃねえのかな」
浄土。
神保が辺りを見回すと、菩薩様達が何かを取り囲んでいた
「すまんがここらにうちの子がおらんかったかのう」
「(荘厳なお声で)我々が教化して大分煩悩を消し去りました…しかし、普通なら一説法で煩悩が消し飛ぶものを皆でやってもまだ消えないのです」
「そりゃ…」
神保が覗き込むと、そこには煩悩をほとんど吸い取られてげっそりとやつれ果て息も絶え絶えになった健がいた
「け…ん?」
「おっさ…ん…俺もうダメだよぅ…」
蚊の鳴くような声で、虚ろな目をして訴える健。
「しっかりせい!まだ一日もたっとらんとゆーのに…つくづく業の深い。ほら捕まるんじゃ健」
「早く〜早く帰ろうぜ〜もうこんな所やだよう(泣)」
そして半死半生?(笑)の健を抱え、如来様たちに丁重に挨拶して、神保さんは現世へと戻った。
教会に戻るとやたら男前で渋い健がいた
「オッサン…誰だあの萌えそーな男前。すげえ食いたいよう」
「馬鹿言うな。あれはオヌシの体じゃろ」
「それでもいいー」
神保は無視して健?に声をかけた
「どうじゃった」
「まあ…子供は親の手を離れるモンさ」
「はーどぼいるどな俺うまそー!!食いたいー!!」
「…うちの子もはやく手を離したいのう」
「同感だ」
房州お父さんは深く同意した
そして健の魂は無事体に戻り、黒龍さんと房州さんはまた退屈な極楽へと戻っていった。
「おっさん、極楽って最悪だな」
「罰あたりな。また悪さしたら連れていくぞい?」
「ぜっっってえヤダ〜!!(泣)」
そして波止場では。
「…小龍…」
「なんだ」
「いや…(今日はすげえ可愛かったなんて言えない)いい親父さんだな」
「ああオレの自慢の親父さ」
「(…やっぱ可愛い)なあ、小龍…キスしてくれねえか?」
「なんだ、オレが欲しくなったか?しょうがねえ玩具だな」
そして二人の甘甘な時間が流れていった。
予想されうりまくった結末
健は帰りつくなり賭場へ走り、夜っぴいて博打を打った後、天界で心配していた忌田さんの手料理及び当人をかっくらって爆睡し、起きてまた博打を打って、次はユウたんの手料理及び当人をかっくらってたのだった
「…お前、こんな生活してっと地獄に落ちるぜ」
「ぜってえ落ちる!!てか死んでも極楽にだきゃあ行きたくねえ」
「はあ?」
神保さんのしつけも、どうやら逆効果らしかった
極楽編第二段。相変わらず退屈な極楽ですが、房州さんも話相手が出来てよかったですね
ちなみに健ですが…やっぱ極楽は完全に性に合わないでしょう。という訳で、死んだら極楽行きが決定してると思います。多分、今までの所業をたっぷり後悔できるはず